1 “ウオンツ”データの特徴:
冒頭で述べたごとく"ウオンツ"データは需要調査と異なり、多面的で対象者の内面に束縛を与えない利点があると考えられる。また、ある意味で夢や希望に近いこの概念は、その実現性にも束縛されない。また問題点の抽出と違って問題点を意識していない領域、つまり問題点を認識すらすることのできない領域においても“ウオンツ”は存在し、通常のアンケート等では引き出せない内面に潜在している意識を抽出できる可能性がある。これらは決して実現し得ないわけでもなく、そのままの形で実現しなくても“ウオンツ”から派生する目的は別の方法で補える可能性もある。そういう意味で、潜在的に内在する概念の抽出方法として有効であると考えた。
2 調査対象者と調査・研究方法
a. 対象地域
本研究の主な対象地域は、著者が勤務する青森県百石町であり、サービスの充実度が異なるA村とも比較を行うことでさらに考察を深める。
b. 調査対象者のサンプリング
調査対象者数の決定については、調査の段階を進める中で“ウオンツ”カテゴリーの飽和化とカテゴリーを構成するサブカテゴリー、さらにそれらを構成するツリーの飽和化が確認された時点でサンプルの終結を決定することにした。
サンプルする対象者は、“ウオンツ”を質的にも量的にも特に抱えていると思われる高齢者からの情報の漏れをなくし、かといって対象者の背景が偏ることで見逃されてしまう弊害を考慮し、focus group を設定した。
・Focus groupの決定
Focus groupの決定については、研究者(地域医療学、社会医学)とサービス専門家としての行政、福祉関係者(社会福祉協議会など)、ケアサービス(デイサービス、訪問看護、在宅介護支援センター)、病院からスタッフが参加して行われた「Project Cycle Management 手法による参加者分析」の手法にのっとり分析され、今回の調査目的に照らし合わせて最終的に決定された。つまり、特に介護を要する高齢者とその家族は病院の往診者リストから抽出し、独居高齢者を町の「一人暮し老人」リストから抽出した。さらに町にある2つのデイサービス施設の利用者、特別養護老人ホーム入所者、老人クラブ、身体障害者を対象とした。
・データの補完
上記focus groupでデータは飽和に近づくものと思われるが、当事者(介護を受ける高齢者)に携わり、当事者の行動や観念を観察しているケアスタッフによるデータの補完が必要と思われた。さらに、一般住民のデータも参考にし、必要であればデータの補完に用いることを考えた。これらのデータは必ず属性を保持することで、属性における特性が見逃されないように配慮することとし、原則として補完のためのデータは直接的に分析には入れないこととした。