また、被介護者の存在は地域行事への参加や仕事や運動への従事にも妨げとなっていた。事例調査に関する考察でもふれるが、核家族化が進み老人のみの家庭、大家族でも共働き世帯が多く、介護は高齢者にかかって来る現状では、副介護者がいないことが大きな要因であろう。被介護者がいるということは、介護者を相当に束縛するということである20)。
今回用いた主観的幸福感については、満足感や心理的安定感といったQOLを構成する下位尺度の一つ21)として心理・健康・社会的な個人の基礎的状況22)とともに重要な要素である。また、幸福で生きがいに満ちた老いを実証的に検討するために概念化されたものであり、「生きがい」の一部である現在の生活への適応感情を測定するとされている21)。したがって、こうした主観的幸福感を調査し、その背景因子を検討することは、高齢者のQOLの向上を計るには重要であろう。本調査により、主観的幸福感の背景因子として健康状況、毎日の気分、家族の仲、友人や親戚との人間関係、経済状況、生活への満足といった6つの指標に加えて、被介護者の存在が見い出された。
老年期は様々な喪失の時期であり、社会的地位や役割が失われ、身体的機能が低下していくのは必至である。こうした喪失は、長谷川23)によれば、1)心や身体の健康の喪失、2)経済的自立の喪失、3)家族や社会とのつながりの喪失、4)生きる目的の喪失の4つに集約できるという。そこで、幸福な老い(successful aging)を実現するためにはこうした喪失に適応し、克服することが必要であろう22)。先に示した6つの指標は、上記の4つの喪失の克服を意味し、これまでに報告されている結果と一致する10)24)。一方、被介護者の存在も一つの寄与因子として見い出された。介護者の主観的幸福感の関連要因を検討した報告は多くみられるが25)、被介護者の存在そのものが主観的幸福感のマイナス要因とする疫学調査は本邦では少なく、今後、高齢化社会を迎えるにあたり重要な問題であろう。以下、事例調査の項にて考察を加えたい。
B. 事例調査
本調査は、介護者が保有している負担の要因を明かにし、介護者の健康問題との関係について検討したものである。
今回の調査対象者の特徴として、介護者は配偶者である割合が高く、すべて女性であり、しかも被介護者が男性例ではその妻で、女性例では嫁であった。介護者の年齢は67歳と高齢で、介護者が妻である場合は当然ながら平均年齢74歳のいわゆる老・老介護の状況であった。上田ら26)は介護者負担に関する調査にて、高齢介護者は協力者、家族数、健康状態において「不利な状況」にあるとしているが、まさしくそうした状況であった。なお、対象のほとんどは、介護意欲のある在宅医療を可能とする必要条件を備えた人達である。