日本財団 図書館


第3章 危険物の船舶運送における船長の役割

3.1 はじめに

船舶による危険物輸送において、万一事故が発生すると人命、貨物、船体及び周辺環境等に重大な影響を及ぼすおそれがある。また危険物の海上運送は国際間で行われることから、事故防止のためにより統一した国際運送規則の必要性が認識され、1971年IMOにおいて危険物の海上運送基準として、IMDGコードが制定された。IMDGコードは、危険物の海上運送の際の容器、包装、標札、積載方法等が規定されており、IMDGコードに従って危険物を運送することが事故防止の基本とされている。

これまでにも幾つもの事故が発生し、現在の危険物の海上運送に警告を与えている。1989年にはニュージーランドからパプアニューギニアへ航行中の"キャプテンタスマン号"から積荷の殺虫剤が波にさらわれ、1992年には米国領海内で"サンタクララ1号"から21本のコンテナが流出したが、その中には4本の酸化ヒ素が収納されたコンテナと、リン酸マグネシウムが収納されたコンテナが含まれていた。また1994年の冬には、フランスのコンテナ船"シェブロ号"から流出した殺虫剤がシェルブール半島からドイツ沿岸まで汚染した事件が注目を浴びた。また最近では化学工業の発展により危険物の輸送量の増大、多種多様な新規の危険物の出現、コンテナリゼーションの進展に伴い海上だけでなく他の輸送モードとの整合等、輸送関係者のIMDGコードの認識不足により、1996年7月には香港水域でポリエチレンビースを収納したコンテナの爆発事故が発生し、1998年4月には地中海を航行中のコンテナ船(2,600 TEU)で危険物の爆発事故が発生し、コンテナ10数本が海中に飛散し、本船も航行不能に陥る事故が発生する等、危険物を収納したコンテナの事故が多発している。

危険物を収納した容器・包装(ドラム、箱、袋等)のコンテナへの収納作業は、個々の収納者の経験に基づいて行われている。海上運送されるコンテナに船会社が危険物を収納する場合には、海上運送について十分な経験を有しており、適切な収納方法をとることができる場合が多いが、実際にはこのような場合と異なるのが実情である。例えば、チャコール(活性炭)の船積みに際しては、貨物が自然発火しやすく水と反応して自然発熱し、貨物積載場所が酸欠状態になるおそれがあることから、その安全運送には貨物の性状を熟知し、実績に裏付けられた特殊な海技技術が要求されている。

特に、上記危険物を収納したコンテナ流出事故を受けIMOでは、1994年12月第64回海上安全委員会(MSC 64)にてSOLAS条約を改正しバラ積み以外の貨物については、貨物固縛マニュアルを備付けそれに従い貨物を積付けることが決定され、1995年6月第65回海上安全委員会(MSC 65)にて加盟国に対し、危険物収納コンテナのIMDGコードの適合性を検査する、コンテナインスペクションプログラムの実施を要請している。またIMOでは、IMDGコードの適合性の向上に向け、同コードの強制化を含め、教育訓練要件規定の策定等、2001年を目途に検討中である。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION