(2) グローバルトレンドの出現と企業活動
しかし、同時に資生堂の国際事業展開を通して伺えるのは、やはり「グローバルなトレンド」というものが存在するようになってきており、それがこれまでになく企業活動に大きな影響を及ぼしつつあることである。
1976年に働く女性をターゲットにした国際的メーキャップ商品 「インウイ」がイタリア、アメリカのスタッフと共同で開発されたことについては先に触れた。これは70年代後半にはすでに、国際的に同時進行的に発生してきている社会状況があり、それをマーケティングターゲットにできるような状況が現れていたことを示している。また、資生堂製品の中で紫外線をカットする化粧品や、バイオを利用したスキンケア商品が国を問わず広く受け入れられた背景には、世界各国の消費者の、「環境」や「健康」、「老い」といった問題への関心の高まりがある。
「健康」や「老い」という問題について見ると、これらに対する関心がさまざまな地域で同時に高まるにつれて、同じ問題に対して実に異なった方面から取り組みやアプローチがなされるようになり、心理学的、医学的、美学的なアプローチが総合的に進むなかで、こういった世界的なトレンドを商品開発に結び付けていこうとする企業の間では異業種間の連携や新規分野へ領域拡大が重要というよりは不可欠の状況になってきている。資生堂が1989年からはハーバード大学と提携して皮膚科学研究所を設立して皮膚の老化のメカニズムをはじめとする健康科学の研究を始めるとともに、「化粧」や「化粧品」をよりよく「生き」、よりよく「老いる」ための健康科学の中に位置付けて研究と製品開発に乗り出しているのもその一例である。
ロボットであるはずのソニーの「アイボ」が「癒し」をもたらすぺットの代用として開発されたように、グローバルな志向やトレンドは何らかのかたちであらゆる企業の活動に影響を及ぼすようになってきている。国際市場で生き残るにはこのような世界的トレンドをいち早く捕らえる必要があり、また企業がそのようなトレンドをターゲットにする商品開発を行うことによって、ますます世界のトレンドはひとつの方向に収斂していく、という相乗作用が生じているのもまた「グローバル時代」のひとつの側面であるといえるだろう。