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このように整理してみると、図の上半分に親米的な傾向が、下半分に反米的な傾向が強いことがわかるだろう。第1象限の中谷巌や竹中平蔵など、アメリカのビジネス・スクールへの留学経験をもつ者が親米的であることはすでに見たとおりだが、第2象限に属する一部のフェミニストもまた、アメリカをモデルとした市場経済の徹底による女性解放・いわば「家族の規制緩和」をめざしている点で、親米的ということができよう。一方、第4象限の西部邁や佐伯啓思らは、アメリカに対抗して日本固有の文化や伝統を重視するナショナリストであり、第3象限の鶴見俊輔や色川大吉らの進歩的知識人もまた、イデオロギー的にはナショナリストと対極の立場を取りながら、何らかの規模の共同体をグローバリゼーションへの対抗の拠点と考えている点では同じである。そこには旧来の保革の対立を越えた奇妙なねじれが存在している。とくに興味深いのは、市場原理を重視するDavos Cultureの影響下にある知識人がおおむね親米的であるのにたいし、Faculty Club Cultureを受け入れている知識人の一部は必ずしも親米的ではないということである。第3象限に属する進歩的知識人は Faculty Club Cultureの影響のもとで国際的な人権思想を身につけつつも、グローバリゼーションの圧力から個人を守る砦として、共同体に大きな価値を見いだしている。従来この象限はおおむねマルクス主義の影響下にあったが、近年の環境運動やNGOなどの動きが示しているように、ここからは旧来のイデオロギーから脱却した新しいタイプの運動が出現しつつある。つまり、アメリカに由来するFaculty Club Cultureを基盤として、同じくアメリカに由来する経済的グローバリゼーションに対抗しようとする動きである。

以上の整理をもとにして、現代日本の言論界の状況を概観するならば、次のようにいうことができよう。すなわち、今日の論壇では図の第1、第2象限に属するグローバリストの影響力が強く、第4象限のナショナリストが少数派としてこれに対抗している状況だということである。だが上述のように、グローバリズムに対抗する立場としては、ナショナリズム以外にもリージョナリズムやローカリズムなどが考えられるのであり、いずれにしてもそれは何らかの規模の共同体を基盤とする運動であろう。やや仮説めいたことをいえば、そうした新しい動きの出てくる可能性が最も高いのが、図の第3象限である。今日の時点ではまだまとまりを欠いているが、第3象限から生まれる(古い「進歩派」とは異なる)新しい運動が、第2象限や第4象限の一部も巻き込み、第1象限に対抗して共同戦線を張るということも十分に考えられるのである。

 

研究協力者:

田中 紀行(京都大学助教授) ・沼尻 正之(大阪国際女子大学講師) ・日野 大輔(日本学術振興会特別研究員) ・野崎 賢也(同)

 

 

 

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