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3.電子式船荷証券で、この性質を有するようにするには、論理的には、当該電子式船荷証券の現在の(最終の)「所持人」から、その呈示ないし提出(surrender)のメッセージが電子的に送られない限り、運送人は引渡義務なしとすれば良いはずです。昨年実用化された(稼動開始した)Bolero B/LのRulebookがこれを採用しています(3.6.(1))。なお、(Q4-14-4)で説明したとおり、Bolero B/Lでは、実質上order B/L(当初運送人が電子式船荷証券をBlank Indorse する場合又はHolder-to-orderを指定する場合)とstraight B/L(同じくConsignee Holderを指定する場合)の区別を有していますが、前者のみならず後者でもその提出(surrender)が要求されています。

ただ、この場合も、2.後段で述べた、運送貨物の所有権に基づく引渡請求との優先関係の問題は(運送人にとり厄介な問題ですが)残ります。

4.他方、かつて1990年に、万国海法会(CMI)が抽象的な電子式船荷証券の発行・流通・回収のメカニズム(換言すれば電子式船荷証券における関係者の権利義務関係の抽象的モデル)として制定したCMI Rules for Electronic Bills of Ladingでは、電子式船荷証券上の運送人が引渡義務を負う者は、現在の(最終の)「所持人」であり、かつその者に現実に貨物を引渡す限り、当該電子式船荷証券は当然に回収されたものと見做す(そのデータを失効させる)という方法を採用しています。Art. 9.b.において、引渡しにより個人キーが自動的に廃棄されるというのがそれにあたります。Art. 2.9. 及びArt. 7.a.によれば、個人キーがなければ、電子式船荷証券上の権利行使は一切できなくなるからです。

紙の船荷証券の場合は、たとえそう決めても、現実に回収されなければしょうがないわけですが、電子式船荷証券は、その前提となる関係者間の合意により、上記のように決めてしまえば、それはそれで良いのです。

この場合、電子式船荷証券と引換でない引渡という問題は、引渡が現在の「所持人」にされる限り、理論的に起きなくなりますので、受戻証券性は事実上あまり問題にならなくなります。(残るのは、現在の「所持人」への引渡義務と運送貨物の所有権に基づく引渡請求との優先関係というBolero B/L等さらには紙の船荷証券とも共通の問題のみです。)

5.現在通産省の予算事業として進行中の国産の電子式船荷証券プロジェクト44であるいわゆるTEDIプロジェクト45の場合、その法的な枠組を規定するTEDI共通規約も作成途上ですので、まだ何とも言えません。

 

44 正確には貿易関係書類全体の電子化プロジェクト

45 「貿易金融EDI共通基盤システム」開発プロジェクト及び「TEDI共通規約」作成プロジェクト

 

 

 

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