−まず吉井町の特色について。
尼崎 五蔵岳のふところに抱かれた山あいの町で、昔ながらの田園風景が広がる。古代から江戸時代初期までの史跡が多く、メロン、イチゴ、リンゴ、ミカンといったフルーツの産地でもある。また、町内を流れる佐々川は清らかであり、地元の水源として大いに役立っている。
このほか、吉井町の南隣には、山ひとつを隔てて佐世保市が接している。吉井町から佐世保市への所要時間は車で30分ほど。このため、佐世保市に通勤、通学する吉井町民は数多い。
−地域での自転車の利用状況は。
尼崎 山間部で坂道が多いため、平野部に比べ自転車利用は少ない。町内で自転車に乗っているのは中学生、高校生がほとんどで、一般社会人はほとんど利用しないと言っていいだろう。松浦鉄道吉井駅の近くに町営の駐輪場を設けているが、ほぼ20台分のスペースのうち、ふだん利用されているのは10台分くらいだ。
−やはり、一般の人にとって日常の交通手段は自家用自動車ということか。
尼崎 町内の1世帯当たりの自動車保有台数は2-3台で、大人ひとりが1台ずつを保有している状態に近い。従って、通勤なども自動車利用が圧倒的に多いといえる。
しかし、公共交通機関の利用がないわけではない。吉井町では町営体育館の横に無料駐車場を設けているが、そこに毎朝車を停め、電車やバスに乗り継いで通勤する人も結構いる。
−今回、松浦鉄道が実施した列車内への自転車持ち込みモデル事業をどう評価するか。
尼崎 CO2(二酸化炭素)などによる温暖化など、地球環境問題がますます深刻さを増す中で、環境負荷の小さい自転車と列車を組み合わせた今回のモデル事業は評価に値する。この事業を通じて住民の環境保全に対する認識が深まると思うので、今後も実施してほしいと考えている。
−列車への持ち込みをはじめ、自転車利用を促進する上での問題点は。
尼崎 当地の場合、道路構造に問題があるため自転車が普及しないという側面がある。どちらかというと自動車対応の道路整備が先行し、歩道や自転車道の整備が遅れているのが現状だ。まず、こうした道路整備を行うことが必要と考えている。
しかし、自転車利用を促進する素地がないわけではない。吉井町からお隣の世知原町(せちばるちょう)まで、全長6・7キロメートル、幅4メートルのサイクリングロードが整備されている。