6. 外国人住民の安心感のために
職員の語学学習にあたっては、基本的にはオーラル・コミュニケーション、すなわち「喋る」「聞く」に重点をおいて考えるべきであろうが、仕事によっては口頭によるコミュニケーションよりも寧ろ文書・文字によるコミュニケーションの方が便利であり、また、正確・徹底を期する上でも適切である場合も多い。病院・医療機関・交通機関等でのお知らせ・案内・注意書きの類、諸申請の受付・記入要領等、予め外国語でも表示しておけば、それだけ職員の口頭でのコミュニケーションの負担は軽減される。たとえば、一般には口頭でのコミュニケーションが絶対必要と思われる救急の現場でも、事故の概要、負傷の程度、各種症状等を外国語で記した救急医療カードを救助隊員に携帯せしめ、現場で負傷者・病人等が日本語を話せないときにはカードで示すことで、救助を必要とする外国人とのコミュニケーションを図ることができる。この場合、カードに加えて隊員が少しでも口で語れば、より正確なコミュニケーションができるとともに負傷者・病人等に与える気持ちの上での安心感は倍増すること間違いない。外国人に対する行政サービスであっても、日本人に対する場合と同様に、その質の善し悪しが問題となる時代がいずれ到来する。外国人に対し単に意思が表示されれば足りるというのでなく、このような細かい配慮も念頭において対策を考えるべきである。
外国人とのコミュニケーションに外国語の能力、特に多少なりとも喋る能力は欠かせないが、単に語学力に優れていても、誤解を招くこともあるし、コミュニケーション・ギャップを生じることもある。外国人と誤りない意思疎通を図るためには、外国語を書いたり読んだり、喋ったり聞いたりする以前に、もっと基本的に必要な心構え、資質・知性の問題がある。
7. 外国人の人格の尊重など
その第1は、個々の外国人に接するとき、これを一律に「外国人」として扱わないこと。外国籍の人々の一人一人についてそのアイデンティティ・人格を認め、日本人に対するのと同様に、人としての尊厳・人権を無視しない。報告書 第1の2)(A)「職員に求められる語学力以外の資質・能力」でも明かなように「外国人との接し方・プロトコールの知識」の重要性が広く一般的に指摘されている。プロトコール上の具体的「知識」も大切であるが、その基本にあるものは単なる知識ではなく、相手に対する思いやり、人間としての尊重、国家に対する敬意といった精神的なものである。これを土台とし、そこから生まれた「仕来り」であり「慣例」がプロトコールであることを忘れてはならない。プロトコールは、地域・国・民族などによって異なる。が、いずれの場合であっても、このプロトコールの基本をしっかりと心に刻んでおけば、外国人との応接に大きな誤りを起こすことはない。