◆はじめに
1. 難民緊急事態の管理・運営(emergency management)に決まった形はない。全く同じ緊急事態が繰り返すことはないからだ。ただし経験上、一定のパターンが認められており、これに従って展開することが多い。
優れた緊急事態の管理・運営は、こうしたパターンと有効な対応策を知っているか否かに左右される。
緊急事態は、悲惨な結果に終わるとは限らない。準備段階から適切に管理・運営をすれば、悲劇が起きる可能性は大幅に減る。
2. 緊急事態の管理・運営には、一般的な意味での「優れた管理・運営」と多くの共通点があるが、以下のような特徴もある。
i. 人々の生命と福利が危機に瀕している。
ii. 対応時間が短い。
iii. 危険要因が多く、間違い、遅れが悲惨な結果を招きかねない。
iv. 不確実性が高い。
v. 不測事態対応計画の立案、その他の準備活動が必須である。
vi. 職員や管理者は、安全上の問題や厳しい生活環境などが原因で、特に大きなストレスを受けやすい。
vii. 唯一の明確、かつ正しい答えはない。
第II部の構成
3. 本ハンドブックの第II部(第3章〜第9章)は、緊急事態の準備と対応が、事態の段階に応じて構成されている。まず、第4章では不測事態対応計画の準備や早期警戒活動について、次の第5章では初期段階のニーズと資源の把握、および即時対応を扱う。事業計画の立案、調整、組織化は、第6章と第7章で扱う。続いて第8章で事業の実施、監督、管理のための手続きなど、実施の手順を検討する。最後に第9章では、庇護国政府との関係(事業実施国におけるUNHCRの正式な駐在手続きを含む)、拠出国・外交団との関係、メディア対策を取り上げる。活動の中には、緊急事態準備・対応の各段階にまたがるものもある点に注意する。特に対外関係、調整、計画立案はそうである。
4. 図1は、第II部で扱う検討事項の一部、特に緊急事態対応に関わる事項を表で示した。問題点、何が必要とされているか(ニーズ)の把握(needs assessment)、事業計画、実施手配、援助計画の策定(programme formulation)といった対応活動は、すべて密接に関係している。本書では個別に扱われていても、実際には分離できない部分もある。また緊急事態事業の立案にあたり、唯一の正しい順序や方法はない(ただし、UNHCRの所定手続きに従う必要はある)。