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1991年、高等弁務官として初めて現地視察に赴いた私は、おびただしい数のクルド難民が故郷のイラクからトルコやイランへ逃れようとする場面に直面しました。その後も大量の難民を生み出す危機は世界各地で続き、多くの人々に苦しみをもたらすと共に、UNHCRに対する期待も増大してまいりました。

過去10年間を通じ、UNHCRは、最重要課題のひとつとして緊急事態に対する準備と対応に取り組んできました。その結果72時間以内に職員を現地に送りこむ制度を確立、外部機関とも職員を迅速に派遣することを合意しました。緊急事態に素早く、かつ効果的に対応できる態勢を作り、職員の訓練も実施しています。また、人道援助を必要とする事態にすみやかに対応するため、緊急物資の集中備蓄制度や各国政府との支援協力体制を確立してきました。

1992年以来、UNHCRは世界各地で300回以上の活動を展開し、確固たる緊急事態即応体制を築き上げてきました。これはUNHCR職員全員が誇る業績です。しかし、今後とも重大な難民危機が続けば、この体制はあらゆる事態に対応できるいっそう効果的なものとなることが期待されます。1990年代初頭とは異なり、最近の緊急事態は比較的小規模で、世界の目が届きにくい場所で多発しています。ほとんどの紛争は内戦で、局地化が進んでいるものの国外からの介入は依然として大きく、故郷を追われた人々や、彼らを援助する人道職員が、戦闘当事者の標的となる事態も急増しています。その一方、通信技術の進歩により、たとえ遠隔地であっても、UNHCRの活動能力が高まってきたことも事実です。さらに、UNHCRは他の人道機関とばかりでなく、軍を含む政府機関とも新たな協力体制のもとで活動するようになりました。

このハンドブックは、めまぐるしく変化し、危険が増している最近の難民問題にUNHCRが取り組んで行く上での手引となるものです。本書は危機の発生以前、また進行中のそれぞれの段階で、計画を立てることがいかに重要であるかを示しています。また、不測事態に対する事前の計画や実施計画の立て方は勿論のこと、他の機関との調整の進め方も取り上げています。職員の安全や軍関係者と共同作業をする上での資料や、精神的ストレスへの対処法も扱っています。

今回の改訂版には『UNHCRハンドブック』の初版発行から17年間の間に、UNHCRと協力機関のフィールド職員、専門家が積み重ねてきた経験と献身的な行動が、大きく反映されています。活動に参加したすべての協力者に私は敬意を表したいと思います。

このハンドブックは、人道援助に携わる人たちが、常に変化する緊急事態に対応するための助けとなることが期待されます。緊急事態には、慎重に準備し周到に運営すべき計画、様々な組織の長所、能力を最大限発揮できるような対応策が必要なことも改めて認識させられます。私たちは今後とも新しい課題に取り組みながら、今まで築き上げてきた対処方法を、さらに向上させていきたいものです。

 

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