付録 生物学的環境修復手法関係用語解説
この小冊子及び生物学的環境修復手法(バイオレメディエーション)全般、並びに油濁防除に関する用語の主だったものを選び、その意味することを簡単にまとめてみました。この分野の用語は、まだ歴史も浅く、法律などにより定義されたものも少なく、日本語にうまく訳されたものが少ないのが実状です。適当な日本語訳のないものは、原語のカタカナ表記としました。
油処理剤:Dispersant
“油処理剤”と油濁関連で使用される際は、分散剤を意味する法律用語である。正しくは分散剤という。中和剤という呼名は使ってはならない。
わが国の水域で使用するためには、運輸省の型式承認を受け、合格しなければならない。運輸省令では油を乳化分散する“油処理剤”と油を凝結させる「油分ゲル化剤」を認めているが、殆どは分散剤が使用されている。これらの製剤は、厳密な対水生生物毒性、生分解のテストに合格しなければならない。
現在使用されている製剤の内容物は、石油系炭化水素溶剤(ノルマルパラフィン)と非イオン活性剤であり、概ねその比率は前者75に対して後者25程度である。非イオン活性剤はポリエチレングライコール脂肪酸エステル系と脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタンエステル系のものが主流である。
使用方法は流出油に対し約20%を使用する。
インキュベーター:Incubator
元来は卵を孵化するための箱を言う。微生物学では、微生物の増殖を効率良く維持するため(最適条件を与える)の恒温(恒湿)槽をいう。
イントリンジック レメディエーション(自然修復):lntrinsic Remediation
汚染された場所は特に手をかけないか、あるいは、掘削など簡単な処理をして、その地域に存在する自然の微生物により汚染物質(油など)を分解し、もとの環境に修復することをいう。自然界で通常行われているプロセス。
エアスパージング:Air Sparging
地下水面より下層の汚染土壌に空気を圧入すること。空気を圧入することにより地中の好気性細菌の活動を活発にし、汚染物の分解を促進する。
エアレーション:Airation
空気を注入/圧入する操作のことをいう。空気を水中に注入することにより、水中に溶解している炭酸ガス、軽質の有害物質を追い出すことと、水中の酸素濃度が高められ微生物の活動を活発にすることが期待できる。
エマルジョン(乳化物(液)):Emulsion
ある液体が他の液体中に微細に分散して入り込み、その温度で安定な乳状になったものをいう。油と水の場合、二つのタイプのエマルジョンが存在する。その一つは、水中油(滴)型エマルジョン(Oil in Water Emulsion:O/W Emulsion)と呼ばれるもので微細な油が水の中に分散したものである。もう一つは油中水(滴)型エマルジョン(Water in Oil Emulsion:W/O Emulsion)である。油濁事故の場合できるのは通常O/W型のエマルジョンである。エマルジョンを形成する場合には、界面活性物質(Surfactant)の存在が必要である。重油は微量の界面活性物質を含んでいる。
Mp/P比:Methylphenanthrenes/Phenanthrene Ratio
フェナンスレンはベンゼン核を三つ持つ多環芳香族炭化水素(CH3-)に置き換わった化合物で多くの異性体を持つ(メチル基の置換している位置、数が異なるものが多くある)。この比率が大きいと原油、重油による汚染の可能性が高い。そして同種の原油、重油ではこの比はほぼ同じである。分析は通常、採取した試料をガスクロマトグラフ/質量分析法で測定して行う。
PPP(汚染責任原理):Poluten Pay Principle
油濁であれその他の汚染であれ、汚染を直接引き起こした者がその防除、修復に責任があるという考え方。その責任が有限であるか無限であるか、議論のあるところではあるが、細菌では、汚染者は最大限の用役負担の責任を有するという考え方が定着してきている。