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近年、1997年1月のナホトカ号重油流出事故にも見られるように、油濁による環境汚染も我々の生活を直接おびやかすようになってまいりました。私どもは、これら油濁事故に対しては万全の手法と方法を確立すると同時に、常時、適切に運用できるように準備し、訓練することも忘れてはなりません。

油濁事故への対応の基本は、なるべく早期に、できるだけ水面上で回収或いは分散・無害化し、陸地/海岸線への汚染を最小限にすることにあります。しかし、不幸にして陸地/海岸線に汚染が進んできた場合には、それなりの対処が必要になります。その対応の方式としては、大別して、バキュームポンプによる吸入、人力による掬い取り等の物理的な方法、洗浄剤等による汚物除去等の物理化学的な方法、および、微生物による汚染油の分解…生物学的環境修復手法に分けることができます。

実際の海岸線の油による汚濁に際しては、上記の方法をどのような規模で適用するか、また、適用してはならないか、投入する資源(機器、資材、人力等)予測される費用等の入手について、入念に検討しなければなりません。ここで重要なことは、専門家の指導のもとに、地域の人達の意見も取り入れながら周到に防除方法を立案することにあります。そのためには、防除に当たり人々がすべて、それなりの知識を身につけていることが大切です。

油濁に対する総合的な取り組みは世界的にみても日が浅く、たかだかこの40年位前から手をつけられたに過ぎません。物理的な対応方法については、各種防除機器の開発、市販が進み、その使用方針もある程度まとまりつつあります。しかし、生物学的環境修復技術(バイオレメディエーション)については、約10年くらい前からシステムとしての検討が始められたに過ぎません。もちろん、暫定的な指導要綱もあるにはありますが、一般には広く知られておりません。わが国でも研究報告や講演については数をみるようになってきておりますが、未だ、一般的な参考書はないのが実状です。しかし、油汚染への対応の一つである生物学的環境修復技術(微生物浄化、バイオレメディエーション)についても我々の“知恵”として持っておく必要があります。

この小冊子は、油濁事故の対応についての選択肢の一つとして、可能性のある生物学的環境修復手法(バイオレメディエーション)について、その背景、特質、内容と適用に際しての留意事項をコンパクトにまとめたものであります。読者の皆様が生物学的環境修復手法とは、どのようなもので、なぜ用いられるのか等、その概念を正確に把握されること、適用に際して、遺漏のない対応の一助になれば幸いであります。

また、付録としまして、生物学的環境修復手法に関する用語の解説集を付けました。更なるご理解ご検討の資料となれば幸いです。

この冊子は、日本財団の協力を得てできたものです。日本財団とこの冊子の作成に協力をいただいた「生物学的環境修復手法の社会的コンセンサス形成の調査研究」検討委員会の方々に感謝します。

 

平成11年3月

財団法人 未来工学研究所

 

 

 

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