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まず第一に人間の体というものがいかに合理的にかつ精緻に形作られているかということである。一見煩雑に思われる人体の筋肉、脈管、神経等が実は意味を与えられてそこに存在し、そして機能しているという事実に私は感嘆せざるを得なかった。自然の神秘を目の当たりにし、畏怖すら感じた。しかしこの体感により、生命とは一体何なのかという私の漠然とした疑問に、一筋の光が差したのもまた事実である。

第二には人と協力していくことの重要性である。現代の医療は高度に専門化されているため、独断は許されない。学生の実習を医療の現場と対比させるのはおこがましいが、四人で行った今回の実習は必然的にチームワークを要求された。真剣さのあまり口論する場面も見受けられたが、互いに毀誉褒貶しながら、それぞれが将来医師として恥じることのない知識を、御遺体から得て行った。競争社会に生きる私たちには、協調性が気付かぬうちに欠けてしまっていないだろうか。自分さえ分かればその日の実習は終わりという卑小な考えは、献体された方の御遺志に背くものであると言っても過言ではなかろう。四人それぞれの、御遺体と医学に対する謙虚さが一つになった時に始めて、共通のテーゼの中で私たちは学ぶことが出来るようになったと思う。

そして第三には生命の尊さである。私たちより何十年も多くの月日を歩まれた御遺体の体は、その人生の最後に献体という形で我々ひいては社会に貢献された。

 

 

 

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