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歯学生としてはじめて御遺体に対面したとき、実習生は誰もが真っ白な気持ちでいました。僕たちにとって、この経験は自分の家族に対面するのとは違います。故人が生前どういう方だったのか、どのような原風景が尊い御意志を育んだのかは、一実習生には知り得ません。ただ、そこで言えることは故人の御身体は「自分の身体が今後の医歯学の為になるなら」という想いにより、自分の前で静かに解剖台の上に横たわっているということです。

解剖学実習は僕にとって、ページごとに人体図が途切れてしまい映像がつながらない解剖学アトラスとは違い、頭部から指の先までどんな小さな神経・血管でも途切れることがない「生きた教科書」でした。

このことは自分にとって代えがたい知識を与えて下さいました。そして医歯学を学ぶ者への故人の期待を痛感させられました。若輩の僕にはこの貴重な時間を与えてくださった故人の気持ちを御遺族の方ほど十二分に知り尽くすことはできません。故人の御意志に対し今の僕にできることとして、研鑽により社会に貢献できる医療者となることをここにおいて誓います。

 

 

 

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