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解剖学実習を終えて

栗原 俊夫

四月に人体解剖実習が始まり、五人で一体のご遺体に相対してから早いもので解剖の全課程を終えました。解剖学実習室に始めて足を踏み入れる前のなんとも言えない複雑な緊張感を思い出します。医者の道へ本当に入って行くんだというよろこびと、不安、また死者と対し、それを扱う事の恐怖などが入り交じった異様な感覚の中で始めての解剖実習は始まりました。実習室に入ると白いシートに包まれた遺体が三十体近く解剖台の上に乗せられて三列にきれいに並べられていました。始めてその光景を見た時の事は一生忘れることはないでしょう。

我々の班は女性のご遺体を与えられました。未熟な技術と知識の少なさから思う様に解剖が進みませんでした。私は技術的に問題があるのだと考えていたのですが、それは大きな間違いでした。私が解剖をスムーズに進められなかったのが、知識の大きな欠如によるものであると認識したのは、実習が始まって数週の内だったと思います。これはクラスメートより幾分早かったと思われます。それは私の担当が神経や血管が走りめぐる頭頸部であったことによるでしょう。私の実習が本当に始まったのはこの頃からだと思っています。知識を得る為に本を読み、配られたプリントと照し合わせ勉強しました。これによって私の実習は大きく変わりました。

 

 

 

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