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始めは恐る恐るメスをいれていきましたが、大分作業に慣れ、解剖も深部に進んで行くにつれ、人体の複雑さや精巧さに感心をし、もっと奥をみたいと、どんどん積極的に作業を進めていくようになりました。実習書を読み、どこに何があるのか納得したつもりでいざ作業を始めてみても、実物を前にすると何がどうなっているのか全く分からず、手探りで解剖を進めるということも多々ありました。そんな時、時間をかけながら慎重に目的物を探して、一つがみつかるとそれに関連して周囲の構造も一気にみえるようになる、あの喜びはかけがえのないものでした。

実習を通して、私は能動的な学習の重要性を学ぶことができました。これまで、勉強とは教えられたものを覚えることが主で、自分からこれを知りたいと動くことは少なかったように思います。しかし、人体の神秘さは、十二分に私の好奇心を刺激してくれました。自分の力で疑問にぶつかっていくのは大変困難な作業でしたが、御遺体は必ず解答を用意して待ってくれていました。どんなに小さなものでも、一つとして欠けることなく、私がみつけるのを待ちかまえていました。作業の困難さに何度も妥協をしかけましたが、それを乗りこえた時の達成感は、これからのどんな場面にでも役にたつのではと思います。

最後に、実習は一応終わりを迎えますが、これは終わりなのではなく、この実習を基にした医学の勉強の始まりなのだということを胸に、これから頑張っていきたいと思います。そして、献体をして下さった方と、その御遺族の方々に心から感謝を捧げます。

 

 

 

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