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(3) 法人重課の導入

なお、廃掃法に関しては、平成9年度改正時の規制強化策の一環として、産業廃棄物の不法投棄については、法人に対して一億円以下の罰金刑を規定して、行為者よりも重く処罰するとした点が注目される。環境規制法の中に法人重課の規定が新たに導入されたのである。同法の平成9年度改正で罰則が強化された理由については、近時産業廃棄物の不法投棄が社会問題になっているが、この背景には、罰金額に比べて不法投棄に伴う不当利得が大きく、いわゆる「捨て得」になり、従前の規定では罰則の抑止効果が必ずしも十分に働いていなかったこと、廃棄物の不法投棄は、それ自体が環境を破壊する行為であり、廃掃法の目的である生活環境の保全の見地からすれば制裁の必要性が極めて高いこと、さらに、産業廃棄物の不法投棄の場合は、その規模や環境に与える脅威等が一般廃棄物に比べて大きく、さらに重く処罰する必要性があり、また法人により反復継続して実行され、その結果規模が大きくなる例が多いこと等の説明がなされている13

ところで、この改正点を海防法に導入する可能性はないであろうか。例えば、投棄を禁止された同じ種類の廃棄物を同一海域に捨てるのに、海洋汚染の点で実質的な違いがないにもかかわらず、船舶を利用した場合には海防法により14、陸から捨てた場合は廃掃法によるので、法人重課はもっぱら廃掃法の適用される場合に限る(なお、自然人に対する自由刑の有無も)として刑罰評価が異なるのは、すでに指摘した罪刑均衡の点から問題がある。今後の改正点として、船舶を利用した産業廃棄物の不法投棄の場合に組織ぐるみで行われる場合には、法人重課の導入が考慮されてもよいように思われる15

【追記】 本稿は、前年度(平成9年度)の海洋法調査研究委員会の報告の概略を記したものである。

13 依田泰「産業廃棄物問題解決に向けての総合的対策」時の法令1555号25頁(1997)。

14 通常、海防法と廃掃法上の不法排出罪は補充関係にあり、重複する限度で基本法たる海防法が適用されるので、船舶、海洋施設、航空機から廃棄物を海面に捨てる場合には海防法上の罰則規定で処理されることになる(大國・前揚(注9)44頁、原田・前揚(注9)239頁)。但し、これらの見解と異なる事案の処理として、昭和54年環産第42号問114も参照。

15 なお、法人重課、すなわち行為者処罰と法人処罰の連動の切り離しの問題については従来議論があったが、現在では、経済犯罪に係る特別法犯の罰則の多くが、行為者の処罰との連動を切り離して、法人の高額罰金刑を定めている。

 

 

 

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