海洋環境の保護における執行と国家の国際責任
立教大学助教授 兼原 敦子
1. はじめに
本稿では、国連海洋法条約232条を検討するが、特に、排他的経済水域沿岸国の外国船舶に対する執行を念頭において、それに起因する損害に対する国家の責任について検討を加えることにする。その際には、同条の想定する状況として、船舶の旗国による沿岸国の国際法上の国家責任の追求や、船舶(私人)による、沿岸国の国内法制度に基づいた沿岸国の責任の追求の二つを考えることができる。後述のように、232条は、後者の状況を適用対象としていることは疑いがないが、前者の状況も適用対象から排除されていないと解されるので、本稿では、おもに国際法上の国家の責任という観点から、同条の責任の性質・要件・内容などを考察することにしたい。
2. 国連海洋法条約における国の執行措置に起因する責任に関する規定
(1) 国連海洋法条約232条
国連海洋法条約232条は、海洋環境の保護・保全のための執行措置から生ずる国の責任を規定している。はじめに、同条において、国家の責任の内容や性質、その要件などを検討するにあたり、焦点となる個々の要件について確認し、さらに、ごく簡単ではあるが、それらの起草経緯をみておくことにしたい。
第一に、国連海洋法条約第12部第6節に従ってとった「措置が違法であった(unlawful)場合」である。それに加えて、第二に、入手可能な情報に照らして「合理的に必要とされる限度を越えた場合」である。第一と第二の要件は、「または」でむすんであるので、各々独立の要件であると解される。