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ここに「国連海洋法条約第111条所定の要件を満たす適法な追跡行為」でなければ、追跡行為から捕捉、拿捕に至る手続きまでが適法とされないということになる。このような事件において、公海上の外国船舶上において、公務執行妨害罪が成立するためには、継続追跡そのものが、国内法にも条約にも適合した、適法なものでなければならないということであろう。条約上の要件を満たし、且つ、公務たる職務行為が適法でなければならない。そこで、本稿では、継続追跡権行使が問題となった判例を手掛かりにしつつ、継続追跡権行使の要件、その要件の認定等について、条約の解釈を確認しながら、その問題点について考察してみたい。

(1) この事件は平成10年6月27日、第3満久号側が控訴している。

 

2. 継続追跡権行使に関連する判例

 

(1) 事件 1で触れた「第3満久号」事件(平成10年6月24日長崎地裁判決)。

(犯罪事実)

第一  被告人Xは、大韓民国(以下、韓国という)の国籍を有し、韓国大型トロール漁船第3満久号(139総トン)の船長であるが、法定の除外事由がないのに、平成10年1月20日午前10時28分ころ、長崎県南松浦郡玉之浦郷の大瀬埼灯台から真方位111度約40.5海里の本邦の水域(領海線の約17.2海里内側)において、右漁船及び底曳網漁具を使用して漁業を行った。

第二  被告人X、Y、Zは、長崎海上保安部職員海上保安官A外15名が同保安部所属巡視船Iに乗船し、被告人Xの前記違反操業を検挙すべく前記第3満久号を追跡した上、同巡視船を右第3満久号に接舷・移乗して被告人らを逮捕しようとした際、逮捕を免れるため、共謀の上、前記大瀬埼灯台から真方位202度約17.6海里の海上ないし同灯台から真方位216度約17.4海里の海上に至る海域(公海上)を航行中の右第3満久号船上において、右Aらに対し、こもごも、多数回にわたり、乾電池を投げつけ、角材を振り回し、同角材で同人らを殴打した上、右Aの顔面を手拳で殴打するなどの暴行を加え、もって、右海上保安官Aらの職務の執行を妨害するとともに、前記暴行により、同人に対し、全治まで6日間を要する顔面挫創等の傷害を負わせたものである。

 

 

 

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