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第2章 船舶安全法の基本理念

 

歴史上人類と極めて深いかかわりを有してきた船舶は、自動車、鉄道、航空機に比べその歴史は古く、常に各種交通機関の中心的な存在として発達してきた。ことに経済が世界的な拡がりを有する現代において輸送物の同時多量運搬の要請に応え得るのは船舶をおいて他になく、その役割は現代の政治、経済、社会において極めて重要な公共的使命を有するものであるということができる。

船舶は、ひとたびその港を離れると長期間にわたり単独で航海することが多く、その間における気象・海象等の変化によっては貴重な人命及び財貨を失うこととなり、これが社会に与える影響はまことに甚大なものがある。このことが船舶の事故の未然防止に関し万全を期すため海事活動全般にわたり諸般の規制を行う必要があると認められる所以である。この規制のうち船舶の構造、設備及び危険物等の特殊貨物の積付等について諸規定を設けているのが船舶安全法である。

海事法令を大別すると、海上運送の秩序維持と健全な発展を図ることを目的とする海上運送法(昭和24年法律第187号)等の事業監督法規と、船舶の安全な運航の確保を目的とする船舶安全法(昭和8年法律第11号)、船舶職員法(昭和26年法律第149号)、海上衝突予防法(昭和52年法律第62号)等の安全規制法則とに分けることができるが、このうち安全規制法規についてみれば船舶それ自体の堪航性が確保されていなければ、どのような使用方法、運航技術又はいかなる優秀な乗組員であろうと船舶の安全を確保し得ず、そういう意味では船舶安全法は海事の安全に係る基本法であるということができる。

船舶安全法は、その第1条において「日本船舶ハ本法ニ依リ其堪航性ヲ保持シ且人命ノ安全ヲ保持スルニ必要ナル施設ヲ為スニ非ザレバ之ヲ航行ノ用ニ供スルコトヲ得ズ」と規定しているように船舶の航行の安全と人命の確保が第一の基本理念である。

船舶が航行中において通常遭遇することのある気象・海象等の変化に伴う危険に耐え安全に航行するためには、船体の構造が堅牢であり、かつ、水密であること、風浪により容易に転覆しないこと、適当な推進装置を備えていること等が必要であり、また、たとえその船舶の堪航性が十分に確保されているにしても事故が絶無であることは期待し難く万が一の事故が発生した場合において船舶に乗船している者の生命の保持を図る必要があることから衝突を予想した水密区画、火災の発生に対処するための防火構造及び消火設備、退船の余儀ない場合を想定しての救命設備、常時船内にいる者の危害防止手段としての居住、衛生及び荷役設備等を施設する必要がある。

 

 

 

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