ここでは、シンガポールの港湾管理システムの特色をつかむため、過去にさかのぼって1964年に設立されたシンガポール港湾庁の役割、内部組織、行政機構のなかでの位置づけを概観し、それらがシンガポール海事港湾庁とシンガポール港運営(株)に引き継がれた経緯を解説する。
(1) シンガポール港湾庁(PSA)の設置
シンガポール政府は、1960年にシンガポール港調査委員会の報告書に基づき、港湾庁を設立することを決定した。港湾庁は、港区全域の航行と海運の管理と規制、および1913年に設立されたシンガポール港湾委員会(Singapore Harbor Board)が果たしていた機能を移管するための組織であった。こうして設立されたシンガポール港湾庁は、通信省(Ministry of Communications)の監督下に置かれた法定機関(statutory board)として港湾政策の執行機関の役割を担っていた。
(2) 内部組織
港湾庁の政策決定の中枢は、長官、政府を代表する3人のメンバー、および海運ビジネスに精通している人物で適当と考えられる人々から構成されていた。港湾庁は予算と事業計画を独自に執行できたが、通信省がその組織の長官を指名していた。
(3) 港湾の所有と管理
港湾庁が管理していたのは、タンジョン・パガール、ケッペル、ブラニの3つのコンテナ・ターミナル、およびコンテナ化されていないカーゴやバルクカーゴを扱うパシール・パンジャン埠頭、センバワング埠頭、およびジュロン港の6つの港湾である。これらのうちジュロン港だけがジュロン・タウン・コーポレーションによって所有され、残り5港は港湾庁によって所有されていた。
(4) 港湾庁のおもな業務
港湾庁の業務内容は、1963年PSA規則(PSA Ordinance)に以下のように規定されていた。
1] 適切で効率的な港湾サービスと施設を供給し維持する
2] 港域内および進入路の航行を規制し管理するとともに、パイロットサービスを供給する
3] 港湾の利用を促進し、改良と開発を行う
4] PSA規則に規定されたその他の業務を遂行する
その後、1986年PSA(修正)法(施行は1986年10月)によれば、船舶の所有者、代理人、または船長は船舶に関する情報を港湾庁に提出することが義務付けられた。