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しかしながら、Journal of Commerce などに現れた多くの実務家の見方は、大西洋市場においては、このような運賃決定に集中度が全く作用しないという、即応モデルから導かれる悲観的な観測を採用していない。1998年時点においてさえも、この市場にはなお新規の参入を十分に吸収するだけの余裕がある事を示唆しているのである。いわんや考察の対象にした1996年第4四半期までのこの市場の動向には、コンテスタブル市場の懸念はなかったと見て良い。この点が決定的理由となって、本章では即応モデルを採用しない。

 

2) 運賃決定メカニズムの特徴─健全な産業組織─

大西洋市場における運賃決定の基本的枠組みは、行動相違型ラグ反応モデルによって説明できると見るのが妥当であろう。その特徴は、以下のとおりである。

・ 「船型の大型化」の要因は、他の市場とは異なって、大西洋市場では機能していない。船型要因が運賃決定因として重視されないのは、大西洋市場が相対的に短距離であるため、船舶の回転数を増加すれば収益を補える状況にあるからであると考えられる。そのため、この市場では、多様なコンテナ船業の自由な参入が促進され、競争性を帯びた市場運賃が形成されていくであろう。

・ 「需給比率」は、東航市場で極めて確実に作用している(係数のt値では1%以内で有意)。しかし、作用の方向は合理的ではない。これに対して西航市場では、それを正常な方向に正そうとする調整力が作用している。その結果、西航市場の需給比率弾力性は、

(-)0.3531+0.2639=0.0892

という、ゼロに近いレベルにある。その意味で、西航市場の運賃は景気に対して中立である。

・ 「集中度弾力性」は、水平的統合戦略の変化によってもたらされる効果を示すものである。東航市場では、集中度の1%の上昇が運賃の0.4402%の上昇を、また西航市場では、同様の変化が、調整値を差し引くと0.2443%の上昇を生んでいる。因みに大西洋市場は、1984年のアメリカ海運法の発効によって規制緩和の影響を受けて以来、集中度の上昇が運賃の上昇をもたらすという、伝統的な産業組織論の妥当する市場へと変身した事が分かっており、1986年までの当時の西航市場の集中度弾力性は、0.316という、現在の状況に近いレベルにあったのである(宮下國生『日本の国際物流システム』、第2章参照)。その意味において大西洋市場では、現在でも、極めて健全な産業組織が、規制緩和の影響の下で継続して成立しているといってよいであろう。

・ 「複合輸送比率」でとらえた垂直統合戦略は、東航市場では有効ではなく、また西航市場でも、その比率の1%の上昇が、運賃を0.1591%低下させている。ここでは、複合輸送比率を、アメリカとヨーロッパ大陸・地中海の間に就航したコンテナ船の輸送能力全体に占めるヨーロッパ大陸向け(あるいは大陸発)の輸送能力の割合を%表示でとらえている。

 

 

 

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