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とはいえ、今後、東航市場からの撤退に際して、撤退者自らがサンクコストを負担せねばならない状況が明らかに生まれるならば、この市場もまた次第にコンテスタブル市場から本来の姿を取り戻す可能性を秘めている。

 

5) フルコスト原則と運賃の市場性は確保されたか

太平洋の東航と西航の2市場において、共通して抱える問題点の1つは、船価と燃料費でとらえたコストが全く償われていない状況である。考察した1993〜96年の期間には、とりわけ船価は余り変動しなかったことが、このような結果を生んだ原因である可能性が高い。コストのカバーの問題は、もう少し長期の考察結果に基づいて議論をすべきであろう。

また他の問題点は、需給比率が理論的に期待されたものとは逆の符号を見せていることである。これは、市場のシグナルに逆らった行動が、運賃決定過程において採られた結果である。もっとも、その行動の確実性が低いため、取り立てて論ずる必要はないとしても、その原因が、TSAなどの船腹調整協定(航路協定)の影響力にあるとすれば、この問題に対するFMCなど規制当局の政策的対応は厳しいものになるであろう。

 

(2) ヨーロッパ航路市場の構造と行動─行動相違型即応モデル─

ヨーロッパ航路市場は、アジアからヨーロッパに向かう西航市場とその逆にアジアに向かう東航市場によって組み立てられている。かつては、典型的な閉鎖型同盟が支配していたこの市場にも、規制緩和の影響が波及し、同盟の支配力が著しく低下したといわれている。

この市場における運賃決定の計測にあたっては、西航市場の構造あるいは行動が、東航市場とどう異なっているのかを見ている。つまり、計測の基本は、西航市場におかれている。

 

1) 柔軟な産業組織を支えるトレードオフ機能 

図表I-2-4に見るヨーロッパ航路市場の構造と行動についての計測結果は、この市場が極めて柔軟な産業組織によって組み立てられていることを示唆している。なぜならば、4種類の運賃決定関数の決定係数のレベルにほとんど差がないからである。その原因を探れば、この市場の西航市場と東航市場について想定された4つの市場タイプ仮説を特徴づける、構造相違型、行動相違型、即応型、ラグ反応型の諸市場が、相互に、特定の運賃決定因を通じてトレードオフの関係にあると見られるからである。

そのトレードオフ機能は、構造相違型関数と行動相違型関数の間では、東航市場における定数項作用の付加と集中度(垂直的統合度)作用の付加の関係において(図表I-2-5)、また即応型関数とラグ反応型関数の間では、コンテナ船の船型と集中度の作用の変化において発生している(図表I-2-6参照)。

 

 

 

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