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シンガポール港湾庁は、97年10月に規制主体としての海事港湾庁(MPA)と、事業主体としてのシンガポール港運営株式会社(PSAC)に分けられた。現在、政府が後者の発行株式をすべて所有している。シンガポールの公企業の民営化は、長期的な視点に立つ国内産業構造の漸進的な体質改善を目的とした政策である。公企業が牽引するシンガポール経済においては、政府が所有する持株会社を通してその傘下に置かれた公企業から収益を還流させ資金を調達するしくみが機能している。シンガポール港運営(株)も、このような利益の還流システムに組み込まれている。

製造業が全世界の市場に製造や販売の拠点を移すグローバリゼーションが進み、国際輸送のロジスティクス、およびコンテナ船の大型化に対応するためにフレイト・フォワーダーの業務が高度化している。シンガポール港のフィーダー・サービスが急速にアジア域内のフィーダー・ネットワークを広げていった背景には、国内でのインフォメーション・テクノロジーの普及がある。近年はジャスト・イン・タイム・システム生産に対応した物流システムや需要変動を考えた物流システムに対する荷主の関心が高まり、フォワーダーに新たなビジネスチャンスを開いている。

 

第4章 台湾

台湾では、アジアのハブを目指してアジア太平洋地域オペレーションセンター計画が進められている。高雄港は、同計画の海運センターの中心として、国際競争力を確保するために、港湾運送事業の民営化、コンテナバース整備への民間資金導入、オフショアシッピングセンターの整備、中台直航化、等の政策が進められている。

港湾運送事業の民営化は、従来、各港務局の管理のもとで独占的に行われてきた港湾運送を民間事業者に開放する政策である。コンテナ・ターミナルの整備方式は、従来港務局が荷役機械も含めすべての整備を行ってきたが、最新のコンテナ・ターミナルNo.5では段階的に専用バース借受船社が整備する割合を拡大している。中台直航化は民間レベルで進む中国との交流拡大やハブ港化にとっても重要な課題であるが、政治的問題のために進展が遅れていた。オフショアシッピングセンターの設置により、便宜置籍船を利用したトランシップ貨物輸送が始まり、ようやく直航化の第一段階が始まっている。

これらの港湾政策は、荷主、フォワーダー、船社の物流ニーズの変化に沿ったものである。荷主企業は、国際分業に対応した物流システムを整備しようとしており、船社、フォワーダーはMCCサービスなどの新たなサービスで荷主ニーズに応えている。港湾の効率化は、物流コストを低減し、新たな物流サービスの開発に不可欠である。予測困難な政治的課題が多く残されているが、今後も港湾政策が計画に沿って進むことが期待される

 

 

 

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