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2. 整備技術

 

整備後のフラッシングを怠るべからず  株式会社 松井鉄工所

Don't neglect cleaning each parts after overhaul.

 

B丸のお話をご紹介いたしましょう。B丸は新造後2年間経過し、その間の航海によって、傷んだ場所を調査すべく、ドック入りして中間検査を受検いたしました。船体の各部に軽微な損傷があり、それぞれ補修がなされました。また、エンジンもピストンを抜出し、シリンダーライナーも取外して、腐食し減量していた亜鉛を取替えました。吸排気弁も久し振りに丁寧に摺合せがなされました。各部品の水ジャケット部、過給機、インタークーラーも美しく掃除され、燃料ポンプやノズルも耐圧テスト、噴射テストが行なわれて完全に整備されました。主軸受、クランクピンメタル、ピストンピンメタルもそれぞれ非常に美しく、異状のないことが確認され、造船所の造機担当者の手で慎重に組立てがなされました。検査も無事終了し、エンジンに潤滑油が入れられ、試運転に入りました。ところが走行開始後1時間位たった時、突然エンジンの回転が低下し、ミストパイプから異常なミストが出ました。もちろんエンジンを直ちに停止し、各部の点検が実施され、ピストンが1本焼損していることが発見されました。造船所から曳船が出て、それに引っ張られて惨めな帰港です。ピストンの交換工事を始めると同時に原因の検討がなされました。エンジンについての状況は次のようであったことが判りました。起動後20分位、無負荷運転を行ない、クラッチを入れて30分位で全力の回転数に上げて走行しましたが、その間、潤滑油のフィルターがよくつまって潤滑油圧力降下が激しく、何度も掃除をしているうちにピストンが焼損したことが判りました。原因はピストンヘの潤滑油不足と急激な負荷上昇によるものと判断されました。

最近のディーゼルエンジンは、高過給機関が多く、平均有効圧力やシリンダー内最大圧力が高くなっており、各軸受やピストン等の摺動部分の受ける負荷も高くなりましたので部品の精度も高く加工されるようになり、必然的に油膜厚さも減少してきております。この油膜がなくなれば、金属同志の接触が起って焼損する訳ですが、油膜がなくならなくても油膜厚さ以上の大きさの異物が混入した場合には、軸受が軸に疵(きず)をつけることになり、その疵(きず)の部分に局部的な金属同志の接触が起こって、それから焼損に至ることもあります。軸と軸受の仕上粗さに適した油膜が常に保たれ、かつその間に油膜厚さより大きな異物が侵入しない場合には、金属間の接触は起こることはなく、軸や軸受の摩耗はほとんどなくなってしまうというように現在では考えられており、また、実際にエンジンでも実証されております。この様な訳で、前述のように油膜厚さが薄くなって来た高過給機関については優秀な性能の、つまり目の細かいフィルターが使用されるようになってきております。すなわち従来は70メッシュや80メッシュのフィルターが使用されていたのが最近では200メッシュや250メッシュと非常に細かい目のものに変ってきており、また、これ以外にバイパスフィルターや、遠心清浄機を備える船もあります。フィルターの目が細かいということは、すなわち、つまり易いということになりB丸のような事故が起こり易くなってきている、ということが言えると思います。

 

 

 

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