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掘削と地震研究
金森博雄
カリフォルニア工科大学地震研究所
Pasadena, California 91125
摩擦溶解と流体加圧が、大型地震の際に重要な役割を演じることを、地震スリップ時の熱供給が示唆する。
摩擦応力σf下での断層作用を考えてみる。温度はσfと地震の規模Mwと共に上昇する。もし熱伝達が主に拡散によるものであれば、熱域の厚さwは、約10秒の地震時間スケールに対し1mm程の規模になる。それほどσfが大きくないとしても、温度上昇ΔTはMw>6で1000℃を越えるであろう。σfが大きくなれば、この値はより小さな規模となる。いずれにせよMw>4から6ではΔT>1000℃となる可能性が高く、溶解が起こる。
他の重要な過程は流体加圧で、もし断層域に流体が存在すれば、多くの研究者が指摘するように、100から200℃というそれほど大きくないΔTは孔隙圧力を増加させ、しいては摩擦を大幅に減少させる。すると断層域は、溶解もしくは孔隙圧の増加によって生じる多くの弱い小区域を持つようになる。熱的な状態はスリップの量により決定されるので、スリップの挙動は、スリップそのものによってコントロールされる。これは境界上での非線形過程や流体分布の若干のばらつきにつながり、スリップの挙動を多様なものにしているかもしれない。
このように掘削プロジェクトから得られる、沈み込み帯上面の流体の量や分布に関する情報は、沈み込み帯での地震の挙動の空間的、時間的な変化を理解する上で非常に重要である。いくつかの沈み込み帯では、非常に浅い境界付近でのスリップ速度が遅く、津波地震となっていることが判っている(1992年ニカラグア地震)。一方、他の沈み込み帯では普通の地震が起きている。さらに、比較的規則的に巨大地震が発生していると思われる南海トラフ沿いでは、1605年に発生した巨大地震は津波地震であったようだ。同じテクトニック地域であっても、地震の挙動は時間の関数として変化するようである。