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葛根田の世界最高温度地熱井で分かったこと。
村岡洋文*、大久保泰邦**
*地質調査所、茨城県筑波
**新エネルギー・産業技術総合開発機構、東京都東池袋
日本北東部の葛根田にある地熱場に、トップドライブシステムのような高効率掘削坑冷却技術を使い、探査井WD-1aが3729mの深さまで掘削された。この坑井は、浅部熱水対流域全体と変成接触面全体、そして新花崗岩貫入岩帯の一部を貫通している。坑井から感知された温度は、沸点制御プロファイルが深さ3100mで380℃まで達し、伝導制御プロファイルでは3100mから500℃の温度となる坑井底まで、非常に高い勾配を持つことを示した(村岡他、1998)。最高温度の坑井について分かったことは以下の通りである。
(1) WD-1aは、Fournier(1987)が理論的にモデル化しているように、沸点曲線よりも高い温度のみならず、花崗岩マグマシステムのサブソリダス冷却プロファイルも持っているおそらく初めての坑井であろう。これにより、この地熱場で発見された新花崗岩貫入岩帯が、地熱システムに於ける冷却マグマ熱源になり得るという最初の証拠を見いだしたことになる。
(2) WD-1aは、石英が主成分の岩で、地殻活動の活発な区域で温度が370℃から400℃になることが知られている脆性・塑性境界(Fournier,1987,1991;Nielson,1994)を、完全に貫通した最初の坑井であろう。WD-1aの温度プロファイルの屈曲点は、深さ3100m地点にあり、温度は380℃で脆性・塑性境界であると予想される。
(3) この坑井のこうした特性は、380℃で脆性・塑性境界を3100mの深さに留めること表している。また、脆性・塑性境界は断裂を3100mかそれより浅い深さに留める働きをし、断裂分布は、熱水対流を3100mより浅い深度に留めている。
(4)WD-laでは、CO2やH2Sのような非圧縮性ガスの放出が深度3350m以深で起こり、深度3708mでは39重量%の総溶解固体を含む高金属成分の塩類溶液が、逆対流による掘削抗液体から採取された。この塩類溶液は、循環する河川水と掘削坑内の洗浄水に混合されることによる影響を受けているはずであるが、熱水対流システムの下に結晶内流体として塩類溶液と非圧縮性ガスの2つの形態域が存在することを意味する。
(5)コア試料の観察とWD-1aのFMI記録によると、1770mから2860mの深さで葛根田花崗岩の変成帯接触面に、鈍角断裂が非常に多く集中している区域が検知された。その区域の現在の透過率は特に高くないが、葛根田花崗岩の上の非常に薄い脆弱な地殻層に小範囲の応力が集中することにより、またキン青石生成反応のような変質体接触面反応の乾燥による水圧破砕により、断裂区域が形成される可能性がある(村岡、1997)。