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マントルプリュームの正体:

最近行われたハワイに於ける潜水探査の結果

 

高橋栄一

東京工業大学地球惑星科学学科、〒152東京都目黒区大岡山2-12-1

 

マントルプリュームの源を知ること(どこから?どのようなしくみで?どのくらいの温度で?何がマグマを形成するか?その他)は、地球全体のダイナミクスを研究する上の鍵となる課題である。プリュームの温度とその化学構成は、プリューム関連マグマ(LIP:巨大火成岩区)を詳細に調査することで特定することができる。ハワイはそのような研究には最適な場所である。1998年の夏、我々は地質学、岩石学的な研究を、ハワイにあるいくつかの楯状火山の深海底域について、海洋科学技術センターの無人探査機“かいこう”、および調査船“かいれい”を使って行った。

以下に、進行中の研究プロジェクトの概略を示す。

ハワイの楯状火山のひとつクーラウは、その玄武岩の成分にシリカが非常に多く含まれている(MgO=7-5重量%に対しSi02=53-55重量%)ことから特異な存在である。このクーラウのソレアイトはまた、Sr、Nd、Pbの同位元素を多く含む痕跡が見られることも特徴的である(Roden & Frey,1994)。クーラウ火山のマグマの主な構成物質を特定するために、我々はクーラウの地表露出部から250個の、海底露出部から90個の標本岩石を採取して分析した。ハワイの楯状火山からは、ときにピクライトが発見されるが、クーラウでも同様である。しかしピタライトの解釈は研究者によって異なる。カンラン石の捕獲岩の影響を注意深く取り除いた後、クーラウ火山の基本的マグマは、玄武岩質安山岩の化学組成である(MgO=7重量%に対しSi02=53重量%)と結論付けられた。クーラウにはピクライトが存在するが、これは初生マグマとカンラン石捕獲岩との混合物である。MORB(大洋中央海嶺型玄武岩)/カンラン岩の混合物を初期物質とした溶解実験を行い、2.5〜3.5Gpaそして1350〜1400℃で広範囲な部分溶解によって、クーラウ型の基本溶解物が生成されることが発見された。この実験条件は、マントルカンラン岩のマグマの生成境界より僅かに低いものであり、もし高いものであれば、このマグマはカンラン岩で飽和し、クーラウ型の高シリカマグマは生成されない。

我々はこの溶解実験と実地調査により、ハワイのプリュームがクーラウの段階(約250万年前)では、マントル温度(PMT)として僅かに1350〜1400℃しか持っていないとするモデルを提案する。このPMTはワトソンとマッケンジー(1991、PMT=1558℃)が均質のカンラン岩源を想定しておこなった、近代ハワイプリュームに対して推定した値より遥かに低い数字となっている。我々の実験によれば、PMTのほんの僅かな増加(50℃)だけで、クーラウ型を近隣のマウナロアやキラウエア型(Si02=49重量% MgO=14重量%)の溶解物に変えてしまうことが判った。一方、ホットスポットの活動に伴い、太平洋プレートの層が薄くなることにより、クーラウ段階(苦鉄質成分のみの溶解)からキラウエア段階(苦鉄質と超塩基質の成分を溶解)に移行する。

従来考えていたよりも低いプリューム温度を見いだしたことは、プリューム内の大規模な旧海洋地殻が存在するという事実とともに、マントルプリュームの源とその湧昇流輸送のしくみについての再考を促す。マントルの湧昇流は、ペブロスカイトからメジャーライトに相転移する地表面から650〜700kmの深度付近で、余分な浮力を得ることが予想される。中立した浮力状態にある上部マントルの下に留まっている沈み込んだ旧海洋地殻は、この湧昇流により容易に引きずり上げられるのである。

 

 

 

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