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(FIG.-18)及び(FIG.-19)

と言う事で、ここでいよいよ最後の与えられたテーマについてお話したいのですけれども、ハイドレートの分解が地球環境を大きく脅かすPotentialを持っていると、その1つの例としてターミナル・パレオシン(暁新世末期)に於ける底生有孔虫の絶滅事件をあげて見たいと思います。

これは左の図。これは東北大学の海保先生が纏められたもので、これはニュージーランドのデーターですけれども(チョット数字が小さくて恐縮ですが)、ここが55.5Ma(5,550万年)の線で、ここでlife extinctionが起きたホライゾン(層準)、この黒い点はパイライト(黄鉄鉱)がここで濃集しているという層準です。

このextinctionについてみますと、海洋の中層から深層の底生有孔虫(有孔虫と言うのは1mm以下の非常に小さな生物でそれには表層を漂っているものと、海底に住んでいるものと2種類あるのですが)ここでは底生、海底に住んでいるモノ、しかも中層から深層程度の水深の海底に住んでいるものでは33〜50%、時には60%がそこで55.5Ma付近で絶滅しているという事。しかし浅海の底生有孔虫やあるいは浮遊する有孔虫ではその程度が大変低くなっている。

と言う事で、この時期の絶滅事件は、中層、深層で顕著に起きたという事が指摘されるという事です。

それから、この絶滅は3千年よりも短い、というのは非常に短い時間であるという事を言っているのだと思います。

(FIG.‐20)

これはODPで得られた有孔虫の殻の酸素同位体と炭素同位体の値なのですけれども、酸素同位体の方からは、これは温度、水温の変化に読み換える事が出来るのですが、ここでは5-6℃の上昇が、この時期にあったという事が計算される。一方それと非常によくsynchronize(同時に起こる)して、炭素同位体はここで約3パーミル、減少して軽くなっているという事が言えて、これは何も、このsiteだけではなくて、幾つかのsite、沢山のsiteでもって、この時期に於けるカーボン・アイソトープの、negativeアノーマリー(負の異常)が記録されています。

それから、先程も示しました様に、この時期に特にこの層準でパイライトが濃集するという事から、これは還元的な堆積物、還元的な水を指示しますので、海底が非常に酸素に不足したという事も言えるかと思います。こういう事は、この前にお示しした、ハイドレートが分解した時に想定されるシナリオと非常に良く一致して、そういう点からこれを説明することは可能であろうと思う訳です。

 

(FIG.-21)及び(FIG.-22)

これは、1つのハイドレート仮説として、この時期のターミナル・パレオキシン(暁新世末期)に於けるExtinctionをハイドレートに拠って引き起こされたと、あるいは加速された、というモデルでありますが、深層水、中層、又ハイドレートが分布するのは、水深1000m-2000mの付近ですけれども、こういう所でハイドレートが海底で分解する。そうすると、ハイドレートのメタンが海洋水を還元的にする、と同時に炭素同位体がnegativeにshift、一方大気に出ていったメタンガスはglobal warming(地球温暖化)をさらに加速すると言う事ですけれども、特にその影響は、この深層、中層で顕著であったと言っている訳です。

これは最初のきっかけが何であるかという事については、海保先生のをそのまま記述したのですが、何らかの理由、恐らく火成活動などに拠って地球の温暖化が少し進む。その温暖化によって海底堆積物中のメタンハイドレートの分解が起こる。その分解によって、1つは大気のメタンの濃度の上昇によってこのpositiveのfeed-backを駆動させる。一方、海水のメタン濃度の上昇によって海水は還元的になっていき、一方、堆積物の方では、パイライトの沈殿が起こる。この貧酸素化、無酸素化が海洋中層、深層の底生有孔虫の絶滅を引き起こしたという事で、こういう現象は炭素同位体組成が、ここで異常に小さくなっている。この炭素同位体が、短い期間に2-3千年の間に、マイナス3パーミル小さくなるという事は、これはメタン由来の軽い炭素が寄与したという事で、良く説明できると言う事であります。

 

これが、今日、お話したいと思っていた全てなのですけれど、私達がメタンハイドレート、ガスハイドレートについて知っている事は非常に少ない、非常に乏しい訳です。今から10年ほど前にメタンハイドレート由来のBSRという事が注目されて多くの所でそれに関する研究は進んでいますけれども、実際に堆積物からハイドレートを採って、どれだけの量があるかという研究は非常にわずかです。それはガスハイドレートを掘削する事、あるいはフリーガスを掘削する事が、ODPのpolicyから言って、safetyな理由から言って、危険があると、そこを掘ってはいけないと言う事があった訳です。実際にハイドレートが分布するような所では、他にフリーガスや場合によっては石油なども分布しているかも知れない。しかし、そういう所で掘って実際にサンプルを採らなければどれだけのハイドレートが地球表層にtrapされているのか、という事、チャンとした数字を出す事は非常に難しい訳ですね。その意味で、このRiser drillingが可能な、新しい構想中の船が出来るという事は、ハイドレートの研究を非常に加速するという事。もう1つ、ハイドレートはきょう午後の話にありました様にDeep-biosphereに於けるバクテリアの活動と密接に関係しているに違いない。それを一連のpackcageとして研究するには非常に深いRiser drillingが非常に有効であるという事を考えています。益々、ハイドレートについて研究をしなければならないと思っています。どうも有り難うございました。

 

 

 

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