横軸を見ますと、大体今から1万数千年前から7万年位前の間に非常に振幅の激しい変動があることが見て取れます。これは温度に直すと10℃近くある変動です。下にその部分を拡大した図がありますが、この変動というのは、特に寒い時期から暖かい時期への立ち上がりが、非常に急であるという事が分かります。それは、短い場合だと数年、人間のライフサイクルよりも短い間に一気に温度が、10℃近くも上がってしまう変動を繰り返したという事が分かって来ました。こういう事から、どうも、特に最終氷期では気候に幾つかの不連続的なモードがあって、その間を急激にジャンプするという事が起こっているのではないかと、そういう様な考え方が出て来た訳です。
(FIG.-4)
こういう事に触発されまして、グリーンランドで明らかにされた急激な気候変動がどれ位の範囲に拡がっているのか、それを明らかにするために一気にいろいろな所で調査が行われました。
この黄色い点で示されているのが、今言いました「ダンスガード・サイクル」、それに伴う変動が報告されてる地点です。現在はさらに多くなっているかも知れませんが、こうして見ますと、日本海も含めまして少なくとも北半球全域にわたって中低緯度にも及んでこの変動が起こっていたという事が分かって来たのです。ですから、少なくとも、半球的、もしかしたら、globalな変動であるという事が分かってきました。
(FIG.-5)
これは日本海の例ですけれども、ODPの掘削で採取された日本海の第四組の堆積物、その堆積物には、この写真に見られます様な、明るい色と黒い色の縞が繰り返します。この縞模様は日本海全域にわたって対比が可能だという事が分かってきました。そして、この縞模様は実は、今お話ししたダンスガード・サイクルとタイミングがよく合っているという事が分かって来たのです。
(FIG.-6)
図に示しました紫色の部分が黒い縞です。横軸が年代ですけれども、それから真ん中に示しているのが有機炭素量です。これは黒い色の原因が大体有機炭素によっている事を示しています。それから、一番上がグリーンランドの氷床コアから得られた酸素同位体比の変動曲線ですけれども、こうして見ますと、黒い縞一枚一枚がグリーンランドで見い出されたダンスガード・サイクルの亜間氷期と呼ばれる、比較的に温暖な時期に対応しているという事が分かります。
(FIG.-7)
詳しい話はチョット時間がありませんので省略させて頂きますが、何でこういう黒い縞が日本海の海底に堆積したのかと言いますと、これは、実はアジアの内陸部に於ける乾燥湿潤サイクルが反映しており、例えば黄河とか揚子江の河川から流れ出る淡水の影響で、日本海の表層の塩分が薄くなる事を通して、日本海の堆積物に黒い縞が出来るという事が分かって来ました。
それから、もう一つは、日本海の堆積物の中身を調べますと、中国から飛んで来る黄砂が入っています。その黄砂の量もダンスガード・サイクルに運動して変動しているという事が分かってきました。そういう事で、どうも、いわゆるアジアモンスーンもダンスガード・サイクルと同じ様にして急激な変動を繰り返したという事が分かってきた訳です。
(FIG.-8)
同じ様なモンスーン強度の変化が、例えばインド洋に於いても深海底の堆積物の記録から報告されています。そういう事から、中低緯度にもこういう変動が見られるという事が示されるようになった訳です。一方で、もう一つ重要なのは最終氷期に、北半球、高緯度域に大陸氷床が発達していた訳ですが、その大陸氷床が繰り返し崩壊した事も北大西洋の深海堆積物の研究から明らかになって来ました。氷床というのはだんだん大きくなっていって、ある限界点に達すると、それ以上、自分を支えられなくなって崩壊する訳です。この上の図の青の矢印で示してあるのが、その「ローレンドタイド氷床」と言われる厚さ3km位の莫大な氷床が崩れた時に、
(FIG.-9) (FIG.-10)
タイタニックがぶつかった様な氷山を、大西洋に流し出した経路です。その氷山の下側には、氷床が岩盤を削った削り屑がくっついている訳です。それが、氷山と一緒に流れて行って大西洋の真ん中でその削り層を落とすと、普段は粘土しか堆積しないような環境に突然粗い堆積物の層が出て来る訳です。そういう事が見い出されました。