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 大正9年8月に兵庫県立神戸測候所の敷地に、関西の海運業者による膨大な寄付で海洋気象台(現在の神戸海洋気象台)ができたが、この計画中、中橋徳五郎文部大臣は無線電信の設備がなくてはせっかくの機能が十分に発揮できないとして、有吉忠一兵庫県知事に働きかけ、さらに膨大な寄付を集めている。
 海洋気象台では、大正10年12月4日から気象実況および暴風敬報の無線放送を開始した。

   完全実施となったGMDSS

 数え切れないほど多数の人命を救ってきたSOLAS条約は、技術の進歩と海運事情の変化によりいくたびか改訂が行われてきた。そして、平成4年(1992年)2月の大きな改訂では、従来のモールス無線電信や無線電話の代わりに、衛星通信など最新の通信技術を利用して船舶の遭難安全通信システムの確実性を大幅に向上させることを目的としたGMDSS(海上における遭難及び安全に関する世界的な制度=Global Maritme Distress and System)という新しい通信システムに切えることが決められた。これに伴って、平成11年1月をもってSOSは廃止になった。
 GMDSSの目的の第1は遭難船舶から直ちに陸上の機関や付近を航行する船舶に遭難の発生を通報できることで、第2は遭難が発生した場合に海上保安庁などの捜索救助機関が即座に捜索救助活動ができるようにすることである。そして、第3は気象警報など遭難にいたる事態を防ぐのに役立つ情報が得られるということである。
 条約の改訂から実施まで7年間の移行期間が設定され、それまでの間は、従来のモールス無線通信等の通信手段も認められていたので、気象庁でも、GMDSSの気象情報サービスとして3種類の情報提供(図2)を開始するとともに、移行期間が切れる平成11年1月までモールス通信であるJMC等も継続してきた。
 JMCは、船舶を対象に北西太西洋の敬報や概況報、観測成果等を通報する「気象庁船舶気象無線通報」の略称である。
 セーフティネットは、英語での情報提供で、太平洋上空にあるインマルサットからの放送である。また、国際ナブテックスは英語での情報提供(518KHz)、日本語ナブテックスは日本語での情報提供(424KHz)で、ともに海上保安庁ナブテックス運用局(那覇、門司、横浜、小樽、釧路)からの放送である。

   最後のJMC通報

 平成11年上2月1日8時50分気象庁予報部通信課無線室から船舶へ向けた最後のモールス無線電信が打たれた。
 モールスコンバーターの使用により人間の手で打電しなくなって久しいが、この最後のときだけは多くの関係者が集まる中、ベテラン無線通信士が昔の機械を用いて直接打電している「CQ CQ CQ DE JMC JMC JMC」で始まり、JMCが、平成11年2月1日9時で終了すること、気象庁では船舶に対する気象情報の提供を今後もGMDSSで提供することを伝え、最後は次のように感謝を述べている。
「JMA EXTENDS SIN−CERE THANKS TO THE LIS−TENERS WHO HAVE KEPT RECEIVING OF JMC BORAD−CAST FOR OVER 50 YEARS.JMA HEARTILY EXPECTS SAEFTY YOUR VOYAGE. THANK YOU VERY MUCH AND FAREWELL.VA VA VA」 
(和訳=JMC通報を50年以上にわたって受信し続けてこられた聴取者の皆様に暑くお礼申し上げるとともに、皆様方の航海の安全を心から祈念いたします。大変ありがとうございました。さようなら。以上)

〈参考文献〉
 ・気象百年史編纂委員会(昭和50年)『気象百年史』気象庁
 ・弟子丸卓也(平成10年)『GMDSSと海上気象情報』「海と安全」日本海難防止協会

図2 GMDSSによる気象情報サービス

 

 

 

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