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この人と/山内 一良

 海難発生件数ワーストワンとなったプレジャーボート等やダイヤモンドグレース事故のような大型船の航行安全対策には、いずれも船位確認の励行が重点事項。また、関係省庁の連携も課題だと指摘。

 

 -プレジャーボート等の海難事故をどのようにお考えですか。

山内 平成9年の要救助海難総隻数は1,678隻で昭和28年以降最少となりましたが、その4割に当たる677隻をプレジャーボート等が占め、漁船を抜いてワーストワンになりました。その背景には、海洋レジャーの愛好者が増えて活動が活発になってきていることがあります。そのことは結構なことですが、それに伴って事故が増えることは困ったことです。
 これらの海難は、基本的な知識や技能の不足など愛好者自身の人為的要因によって引き起こされたものがほとんどですので、愛好者自身がその気になって基本的なルールやマナーをしっかり守っていただけるよう当庁としても全力をあげて海難防止対策に取り組んでいきたいと考えています。
 ただ、プレジャーボート等は、休日のレジャーという個人的な活動が中心なので、商船のように組織的な取り組みで安全対策を講じるのはなかなか難しいですし、一方、海上保安官が制服姿で個別にプライベートタイムの遊びの最中にお邪魔するのも、いかに安全のためとはいえ、むしろ反感を買って逆効果になるかもしれません。
 従って、普段から愛好者に接するマリーナや販売店のご協力をいただいて、連携して取り組んでいくことが大切だと思っています。

 -ダイヤモンドグレース事故後の対策をお聞かせください。

 山内 事故原因は水先人と船長の針路の選定が不適切で、浅瀬に近寄る針路で進行したことによるものでした。海難原因は単純だったのかもしれませんが、大量の油を積んだVLCCの事故ですから、油流出等引き起こされる災害の影響はとてつもなく大きいわけで、安全対策をしっかりやらねばならないと肝に銘じました。
 具体策として、東京湾中ノ瀬西側海域を北航する喫水17?以上の船舶について中ノ瀬西側海域のA、B、CおよびDの各灯浮標を結んだ線から400?以上離れて航過するように指導し、東京湾海上交通センターのレーダーで航行経路を常時監視しています。
 また、二重、三重の安全対策の仕掛けがぜひとも望まれるところであり、航行環境を改善し操船不適切が起きにくくするために、中ノ瀬西側海域に整流用のブイを敷設することについて、関係者への根回しを進めているところです。このほか、今年の海難防止強調運動では、この事故と同じく自船の正しい位置の確認を怠ったために乗り揚げる船舶が多くみられたことから「船位確認の励行〜正しい海図使用〜」を重点事項にして取り組むことにしています。

 -今後の航行安全対策は?

 山内 海難防止対策については運輸省、水産庁等もそれぞれ取り組んでいますが、これらの関係官庁と連携し、さらに関係の民間団体等とも連携して、航行安全対策を進めていきたいと思っています。
 また、特にプレジャーボート等については、海のマナーやシーマンシップとは馴染みのないビギナーの方々がどんどん増えていく、ということを前提とした対策を講じていくことが必要だと思います。

 (平成10年6月5日、航行安全課で 聞き手=村上)

 

〈プロフィル〉
昭和29年生まれ、愛媛県出身、昭和53年東京大学法科卒業、
同年運輸省入省(船舶局管理部)、運輸政策局海洋・海事課補佐官、四国運輸局企画部長、
海上交通局国内旅客課、本州四国連絡橋旅客船問題対策室長などを経て平成9年6月から現職
海上保安庁
警備救難部
航行安全課長
山内 一良



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