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第20回作曲賞選者経過と選評

 

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海老澤 敏

 

いつも秋が終わりに近づいて、財団法人日本交響楽振興財団の、長年に亘る地道ながら、若き音楽学徒の、大きな期待や願望の熱い思いが五線紙上に凝固し結晶するシンフォニックな楽曲というかたちの自己表現の努力を掬い取る<作曲賞>の選考の最初の集まりを目前にする時、私の脳裡を掠める思いがある。

そうしたことについて、私は、この選考経過と選評とを兼ねた文章に、折りに触れては自分の考えを開陳してきた。そのような問題について、私は敢えてここであらためて繰り返すことは差し控えたいが、ひとつだけ指摘しておきたいことがある。

それにはこの<作曲賞>のような最初の試みがきっかけとなり、刺戟となって、近年、ようやく、創作活動を顕彰する機会が増えつつあるという喜ばしい事態である。私のようなオールド・ジェネレーションからすると、若い芸術家たちは、そうした点で、たいへん恵まれているようにみえる。地味な努力がそうした意味で報われることは、まことに望ましくも嬉しいことであるが、若き学徒たちの創作活動の成果が、私たち聴き手を感動させてくれるためには、表現してみたいという内容が適切な音楽表現手段によって巧みに可視化され、そしてその上で可聴化されなければならない。簡潔、端的な手段による美的な音響像の創造が実現して、私たち現代の多様多彩な音響環境、音楽環境に生きる聴き手に、音楽の新しい可能性と楽しみとを与えて下さるよう、あらためての希求を表現させて頂きたい。

さて、20回という節目を迎えた今回の作曲賞の応募状況について、まず、報告しよう。応募者数は、前回とちょうど同数の17名で、このうち再応募者は4名であった。一般高校卒が1名、一般大学卒が3名、他はすべて芸術大学や音楽大学、さらには総合大学の教育学部の音楽特設課程といった音楽の専門コースの在学生、修了生、卒業生、履習者といった人たちが13名であった。内訳は大学在学生1名、研究科在学生1名、学部卒5名、大学院修了者5名(うち博士号取得者1名)、別科修了者1名である。

また年齢的には、22歳から60歳までで、60歳代1人、50歳代1人、40歳代が4人、30歳代が6人、そして20歳代が5人という分布であった。

下位ジャンルとしては、<交響曲>と名づけられたものが3曲、<協奏曲>ないし<協奏的>なものが4曲、あとは<オーケストラのための>といったシンフォニックなものが10曲という分類であるが、二番目のジャンルではソロ楽器が複数活躍するものもある。

演奏時間については、10分以下が3曲、10分から14分までが3曲、15分から19分までが5曲、20分から24分までが4曲、そして25分から29分までが1曲という分布である。

次に選考過程について説明しよう。第一次選考委員会は、平成9年11月21日(金)の午後に催された。委員会には一柳慧、高田三郎、武田明倫、広瀬量平、別宮貞雄、松村禎三のほか、海老澤敏が出席し、野田暉行、間宮芳生、三善晃の3名が書面で選考に加わり、岩淵龍太郎が欠席であった。

この委員会開催日を含めての先立つ5日間が内覧期間として定められており、委員はすでに内覧作業を了えていた。従来通り、座長を海老澤がつとめての最初の選考は、出席委員のそれぞれが、応募作品17曲について、自分が選考の対象となると評価する作品を、曲数に関係なしに挙手で推薦する形でおこなわれた。書面参加の三委員の評価方法はまちまちであったが、野田、間宮の両委員の評価についてはそのまま一票として加えることにし、また、三善委員の評価(ABC+-に演奏可不可の観点も加える形)については、この段階では<B>以上を加えた。

 

 

 

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