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SPORTS FOR ALL NEWS
スポーツ・フォア・オール ニュース
1999 MAR.
vol.29
編集部緊急レポート
行革秘法「PFI」とスポーツ振興
昨今、さまざまなアルファベット三文字が巷を駆けめぐっています。NPOがなんとかわかったかな、というところへ今度はPFI………プライベート・ファイナンス・イニシアチブ(直訳すると民間資金調達構想)の略なのだそうです。でも、その中味についてはあまり知られていません。ひどいものになると、公共事業の資金調達方法が民間に移行するだけ、という甚だしい誤解まで生まれてくる始末。スポーツ振興と行革は切っても切れぬもの。ここらでしっかりと、PFIを勉強しておきましょう。
官から民へ何が動いた?
PFI(Pribate Finance Initiative)は、1992年にイギリスで導入された行政改革手法です。「小さな政府」をめざし、民間にリスクと運営責任を移転し、本来、公共が果たすべき事業を統合的に任せることで、効率化と成果向上を実現するというものでした。
この「成果向上」というのがミソで、PFIが生まれた背景には、イギリスの行政改革全体の目標であったバリュー・フォー・マネー(VFM:Value For Money=「支払額に対する受け取り価値の最大化」)の向上という考え方があります。高い税金を払っているのに公務員の数だけ増えつづけ、公共サービスの質は低下という状況に当時のイギリス国民は大きな不満を持っていました。そこで政府は、怒る国民に対して、税金の費用対効果を向上させることを約束したのです。まず手をつけたのが公共事業の見直し。事業の質と量を従来通りに維持しつつ、いかにコストを下げるかが検討されました。手っ取り早いのは国営企業の民営化でしたが、民営化やアウトソーシングができない分野にあてはめる手法としてPFIが開発されたのです。
PFIは構想であって、その実施にはこれといった定型があるわけではありません。事業の特性を踏まえて、どういう方法がVFMを最大に持っていけるかが鍵になります。たとえば、道路が必要だとします。一定の交通量が見込めて有料化が可能であれば、税金を投入してそのコスト負担を「全体(公)」受け持つよりも、利用者にコストを負担させる方がVFMの向上につながるならPFIにしよう、となるわけです。民間が事業の設計(Design)、建造(Build)、資金調達(Finance)、運営(Operate)をそれ相当のリスクを負って実施し、利用者から料金を徴収して資金回収にあたることからDBFO方式と呼ばれます。
また刑務所にもPFIの手法が使われました。民間が、維持(Manage)、資金調達(Finance)から設計(Design)、建設(Construct)まで実施するDCMF方式で行われ、このマネージの部分がかなりのコストダウンに結びついたといわれています。つまり、収容環境の向上(たとえば食事や娯楽施設、監房の居住性や更生プログラムの多様化など)に伴って、看守や職員の人件費は大幅に削減され、「公」が直接関与した場合のランニングコストを恒常的に引き下げました。これも「VFM向上」というモノサシ(至上命題)で、「公」の関与と「民」の関与を秤にかけてPFIが実施されたのです。
第3セクター方式でよくもめる官民の役割・リスク移転も、この「モノサシ」をあてることでスムーズに運ぶようです。公共は最適なリスク配分を通してVFMを実現しなければならず、また、民間部門は、新しい事業機会を得るわけですからリスク負担に否やは言えません。公共の役割も、民間の事業リスクを減らすために動くのではなく、逆にその収益に見合った形のリスク負担は当然というふうに意識変革されます。民間側も、リスクがあるからこそ、収入増をはかり、コスト削減などの仕組みを工夫するわけで、これが改善や事業努力のインセンティブになるというわけです。
イギリスでは、有料道路、鉄道、博物館などの公共施設にPFIが実施され、利用者からの料金徴収、政府や自治体からのリース料徴収といった形で建設資金を回収しています。ほかにも病院、学校、ごみ処理事業にまでPFIの導入事例があります。
日本型PFIの未来
日本でも現在、「PFI促進法案(民間資金等の活用による公共施設等に関する法案)」の国会審議が継続中です。また、PFIのモデルケースとして中部国際空港と、三重県が尾鷲・熊野地域で公募した東紀州交流拠点施設整備事業が進んでいます。後者の場合、海水を利用した保養、療養、異業種交流などのビジネス研修、教育、水泳やゴルフなどのスポーツ、野外活動、温泉など幅広い施設建設と運営を民間主導で計画されているそうで、スポーツという側面がPFIのなかでどのように開花するのか、注目したいところです。ちなみにスポーツ分野ではミズノ株式会社(本社・大阪市住之江区)が事業を行う上での調査受託者に選ばれました。どのような「青写真」が提案されたのか、その全貌を本紙で紹介できる機会が早晩訪れることと思います。
さて、スポーツ振興とPFIをどのように結びつけることができるか、どういう選択肢があるかを考えてみたいと思います。
スポーツ・フォア・オールの実現には、地域住民のだれもが参加できる「地域スポーツクラブ」の育成が欠かせません。文部省によるモデル事業などが進んでいますが、歩みは遅々としたものです。ネックとなっているのが、「活動拠点の確保」と「クラブ組織の運営ノウハウの強化」といった問題です。現在の財政状況から、公共が設備予算や運営予算を確保することは困難としかいいようがありません。そこに、前段で説明したPFIという手法が浮上してくるのです。
たとえば、公共のスポーツ施設や学校体育施設の新設や増築・改築に際して、前述のDCMF方式を適用できないでしょうか。公的行事や授業部活動等の「公的サービス」までも地域スポーツクラブが請け負い、放課後や休日などを住民に開放し、利用者からリーズナブルな料金をいただくといったシステムは、本家イギリスでもPFIの事例に挙がっています。あるいは2002年のW杯開催を控えたいま、国際的なイベントに供するスポーツ施設をDBFO方式で建ちあげ、初期投資リスクは補助金などで軽減した上で、民間の資金回収を待って(期間は契約で明記)所有権を公共に無償譲渡する、といった仕組みも考慮の対象になるかもしれません。いずれにしろ、スポーツクラブ育成にとってひとつの追い風になることは間違いありません。