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―2002年の施設考―

求められる振興プラン

 

三ツ谷洋子

スポーツビジネスコンサルタント Jリーグ理事

スポーツ21エンタープライズ代表取締役

 

今回のワールドカップ・フランス大会で、私は日本が出場する3試合の応援かたがた、特にスタジアムに注目して各地を回った。計10都市の会場が使われたが、新築は決勝が行われたパリ郊外サンドニのフランス・スタジアムただひとつ。他の9スタジアムは、部分改修をして大会を迎えた。屋根や座席を新しく設置したり、防犯用監視システムを備えるなど、最小限度の改修に留めているようだった。

日本対アルゼンチン戦が行われたトゥールーズの市営スタジアム(収容人数=3万7000人)、対クロアチア戦のナント・ボージョワールスタジアム(同3万8600人)、対ジャマイカ戦のリヨン・ジェルラン・スタジアム(同4万2000人)の3ヶ所を訪れた印象は、「どこのスタジアムも簡素」という一点につきる。改修費は最高でもリヨンの53億円余である。

さて、4年後の日本のスタジアム計画はどうなのだろうか。公表されている数字を見ると最低でもカシマサッカースタジアム(改修後=収容人数4万3000人)の200億円。最高は横浜国際総合競技場(同7万人)の600億円である。サッカーのインフラが未整備の日本では、カシマを除き、新築しなければならないのは仕方ないとしても、莫大な税金が投入されるのは確かである。

フランス滞在中、パリのブローニュの森の中にあるスポーツクラブを見学する機会があった。1882年に設立された「ラシン・クラブ」という名門クラブで、会員は2万2000人。深い緑の中にテニスコート50面が点在しているうらやましい施設である。色とりどりの花が咲き乱れるクラブハウスの前庭に、幅5mほどの芝生の道が左右に延びている。1900年、1924年のパリ・オリンピックの陸上競技場で使われたトラックだという。その向こうに、50mプールと飛び込み用の屋外プール。平日というのにクラブのレストランはビジネスマン風の人や年配のクラブ員で満員だった。100年をかけて育てたスポーツクラブの姿が、そこにあった。

日本に「スポーツクラブ」を標榜するJリーグが誕生して5年。日韓共催のワールドカップを迎える2002年は、10年目となる。その時、Jリーグの各クラブは、日本型スポーツクラブ像を描けているだろうか。ほんの数試合しか行われない各都市のスタジアムは、ワールドカップの開催をキッカケに、地域のスポーツ振興プランを住民に示しているだろうか。莫大な投資額にふさわしいスポーツ振興の取り組みの責任が、関係者にあることを忘れてはならない。

スポーツ振興に重要な役割を果たすのは施設である。利用者にとって使いやすく快適であれば、スポーツはさらに日本人の生活に広く深く、文化として浸透していくだろう。その施設は、巨大である必要はない。豪華である必要もない。その地域の人口や特質に見合った規模で機能を備えていればよい。多様な住民が利用しやすい運営方法を工夫し、効率に配慮しながら、スポーツを地域の文化として育てていこうという姿勢があれば、未来は明るい。

 

サンドニのフランス・スタジアム

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Photograph by Tadashi Shirasawa/

Sports Graphic Number

 

SSF世界スポーツフォトコンテスト'98表彰式

 

去る8月13日、横浜そごう10階のダリアルームでSSF世界スポーツフォトコンテスト'98の表彰式が行われた。

表彰式には約120名が出席し、入賞者では海外からはゴールドプライズ受賞のフィル・ヒルヤード氏(オーストラリア)、日本財団賞受賞のグラハム・チャドウィック氏(イギリス)、キャノン賞受賞のサイモン・ブルティー氏(アメリカ)の3名、国内からはベスト・ウーマン・フォトグラフを受賞した青木紘ニ氏が出席した。

ゴールドプライズを獲得したフィル・ヒルヤード氏は、シドニー在住でオーストラリアン紙に勤務するプロカメラマン。また、キャノン賞を受賞したサイモン・ブルティー氏は95年度にもベスト・カルチャー・フォトグラフを受賞しており、今回で2度日の入賞。同氏は今や世界のトップスポーツフォトグラファーとして活躍し、国内外で数々の賞を受賞している。

写真展は、横浜そごうの8階で8月5日から17日まで開催され、来場者はスポーツの瞬間が捉えた人間の素晴らしさを堪能した。なお、大阪展(大阪ワールドトレードセンター)は9月13日から27日まで、福岡展(岩田屋)は10月13日から25日(予定)まで開催される。

 

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喜びの受賞者たち

 

日本・サハリン親善

少年サッカー交流事業

サハリン少年サッカーチーム来日

 

ロシア共和国サハリン州から14名の少年サッカーチームが来日し、8月2日から10日まで、静岡県清水市でサッカー交流を楽しみました。この日本・サハリン親善少年サッカー交流は、日本・サハリン親善サッカー交流会(西川昭策会長)とSSFが、1992年から実施しているもので、昨年は日本チームがサハリンに遠征しています。

サハリンでは、日本の子どもたちの元気な姿を見ることが、厳しい風雪と多くの困難に耐えながら生きている在留邦人の方々に大きな励ましとなっていると聞きます。日本でも、「国境を越えたキックオフ」として当初から注目され、単なるスポーツ交流に留まらない国際交流として根づいてきた事業ともいえます。

第7回目の今年、サハリンの子どもたちは清水市内の同年代の子どもがいる家庭に宿泊し、親善試合を行い、日本の夏休みも体験しました。Jリーグの試合を観戦したり、ディズニーランドに行ったりと、サハリンの子どもたちはたくさんの初めての体験と、新しい友だちとの出会いを抱えて帰国しました。また、清水の子どもたちにとっても初めて出会う外国人の友人として、忘れられない思い出になったはずです。言葉は通じなくても、別れのときに見せた子どもたちの涙は印象的でした。

次代を担う子どもたちのスポーツ交流を通じて、国際理解と交流の輪がますます広がっていくことを期待しています。

なお、対戦成績はロシアの3勝1敗2分でした。

 

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クローズアップナウ

*このコーナーではスポーツ・フォア・オールの精神がキラリと光る自治体を紹介しています

 

ボランティアの活力によるイベント

〜清水マリーンフェスティバル〜

静岡県清水市

清水市教育委員会 スポーツ振興課主事 鈴木健之

 

清水市は日本のほぼ中央に位置し、“サッカーのまち”として全国的に知られていますが、来年で開港100周年を迎える清水港を擁し、輸出額全国8位を誇る“港のまち”でもあります。ところが、港が身近にあるにもかかわらず、市民が港を利用して遊ぶという機会などはほとんどありませんでした。そこで、清水港を使って一般市民が港に親しみをもてるようなイベントができないものか、という声が民間の海洋関係者から十数年前にあがり、また、行政側としてもサッカーだけでなく、さまざまなスポーツを振興していきたいという考えがあったため、民間の海洋関係団体と協力して始まったイベントが、「清水マリーンフェスティバル」です。

今年で14回目を迎える清水マリーンフェスティバルは、毎年8月の上旬に、年に1度だけ一般解放される清水港・日の出埠頭で開催しています。種目は清水羽衣レガッタをメインに、ボードセーリング羽衣カップ、ヨット体験乗船の3種目で構成されており、昨年は清水羽衣レガッタに27チーム1,000人、ボードセーリングに50人、ヨット体験乗船に200人と多くの参加者を集い、大いなる盛り上がりをみせました。

このイベントの運営は実行委員会組織をとっており、民間人11名、市関係者7名の委員で構成されています。行政が行う業務は、交付金による資金面での援助と事務作業が中心で、イベントに直接関わる企画・運営については、民間の実行委員が中心となって行っています。また、大会当日は実行委員のほかに、羽衣レガッタ参加チームから各2名、市内の海洋関係者40名、市内中学校の奉仕部の生徒11名、そして海上の整備として、実行委員会のメンバーが所属している「清水海上友の会」から10名、合計約110名のボランティアによって運営されています。もともと民間海洋関係者の働きかけで始まったイベントで、運営主体が市民のボランティアが中心となっているため、主催者も参加者も積極的に事前準備や練習に取り組み、大会当日は活気に満ちた雰囲気に包まれています。昨年初参加したチームからは、「自分たちで運営しているイベントのようで、充実感を味わえた。来年もぜひ参加したい」という声が聞かれました。

このように、だれもが主体性をもって参加できるイベントを開催できる理由として、行政が企画するイベントにボランティアを当てはめるのではなく、ボランティア自らが自発的に参加できるように、行政が「支える」姿勢で関わっていることが大きな要因ではないかと思います。

今後も市民がこのイベントを通して故郷の清水港への理解を深め、親しみをもってもらうと同時に、すべての人が自発的に参加できるよう、行政は手助けしていきたいと思います。

 

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清水マリーンフェスティバルでの清水羽衣レガッタ

 

 

 

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