5.4 既存システムとプロダクトモデルデータベースとのアダプターの開発
5.1で述べたように、拡張されたPMの表現範囲の広さについて、造船所で現在稼動している造船用CADシステムとPMとのアダプターを開発し、データ交換実験を行うことによって検証することとしている。すなわち、造船所CADシステムの実船モデル情報をPMに適切に取り込むことができれば、拡張されたACIM PMは実用レベルの広さを持つ表現能力を有すると判断される。
また、初期生産設計アプリケーションや工程設計アプリケーションなど、深さ方向に拡張されたPMの機能検証用に開発する検証用アプリケーションは、既存CADシステムでは対応できない領域を支援する実用レベルのアプリケーションとなるが、これらを用いて生成し修正された情報を、アダプターを介して既存CADシステムに確実に伝達できれば、高度化されたPMの活用成果を造船所側の既存システムにおいても利用可能であることが検証される。
昨年度は、検証に必要なアダプターが持つべき機能要件を整理し、アダプターのシステム的構成を設計し、既存CADに依存しない共通部と既存CADシステムに依存する固有部の概念を明確化して共通部の概念仕様を明らかにした。これを受けて、本年度は拡張されたFLに対応する共通部の詳細設計と実装作業を完了し、固有部に関しても実装を進め、ACIM PMと既存CADシステムとの部分的データ交換をテストモデルを対象として試行した。以下にその概要を述べるが、アダプターは単に拡張PMの機能検証用ソフトウェアという位置付けにとどまらず、既存システムとの連携という実運用上の側面からも重要なものであるので、まずこの点について整理し、次いで、アダプターのソフトウェア本体の詳細について記述する。
5.4.1 アダプター開発の実運用面からの意義
先に述べたように、アダプター開発の主目的は拡張したPMの表現能力(幅方向の拡張結果)の機能検証である。しかし、双方向変換という言葉が示しているように、単に既存システムの実船データをPMに伝達し、適切に格納できるかという方向だけではなく、PMアプリケーションで生成された結果を既存システムへ確実に伝達できるかどうかという逆方向のデータ交換機能も持つ仕組みとしている。すなわち、アダプターは高度造船CIMの世界と造船所で稼動している既存システムとの相互連携機能を有するソフトウェアとして設計されている。
図2.3-1に示したACIMリファレンスアーキテクチャに基づく高度造船CIMを、既に稼動している造船所のシステムを無視して全て新規開発することは現実的でないことは明らかであろう。この意味で、アダプターは造船所においてPMとプロセスモデルを持ち、CORBAという先進情報技術に基づいた高度造船CIMというシステムと、古い情報技術に基づいたクローズなシステムではあるが、既に造船所の実用システムとして業務に深く入り込んでいる既存システムとを両立させて運用するための重要なインタフェースソフトウェアという役割を果たすものである。