序
1990年代に入ってからの世界及び我が国の経済は低成長減速傾向が強く、造船業を取り巻く環境も、急激な円高などに端を発して我が国全体を襲った経済不況の波を受ける一方で、韓国が我が国を追ってシェアを急激に伸ばすなど、環境はきわめて厳しいものがあった。
1997年には我が国と韓国の受注量はほぼ同じレベルに達して、日韓拮抗の時代が到来したと言われるに至った。その一方、東南アジア及び中国の大幅な経済成長はあったものの、昨今では主要な途上国が金融危機に陥るなど経済の動きは目まぐるしい。韓国においてもOECDに正式加盟するとともに大幅な設備増強を実施し、造船分野での圧倒的掌握を狙った矢先、上記の国と同じように急激な金融危機のあおりを受けて猛烈なウオン安に見舞われ、一時先行きは極めて不透明と思われたもののこのウオン安を武器に猛烈な受注攻勢をかけるなど我が国造船業にとって一時も気を緩めることができない状況にある。
こうした環境下で我が国の造船業が健全に生き残り、発展を続けるためには更に安定的な経営基盤の確立がますます必要となっている。我が国造船業にとって、過去の教訓を生かし、かつ急速に進歩を続けている最新技術を効果的に取り込んで経営基盤の強化と、魅力ある産業への再構築を進め、将来にわたる安定的繁栄への基礎固めを加速すべき時にある。
この基盤固めのための一構想として造船業CIMが提唱され、当財団では平成元年度から3年計画で「造船CIMSパイロットモデルの開発研究」、平成4年度から2年計画で「造船業CIMフレームモデルの開発研究」、平成6年度の予備研究を経て平成7年度から2年計画で「組立産業汎用プロダクトモデルの開発研究」を実施した。
本開発研究はこれらの開発研究の成果を受け、造船業CIMの要である「プロダクトモデル」を、最新システム技術を駆使して運用の柔軟性を増し、実務に適用可能な形で提案することによって、造船業CIMの高度化への道を示し、我が国造船業の振興に役立てようとするものである。
本事業の目的と事業の計画及び実施体制については、既刊の「平成9年度知識共有を基盤とした高度造船CIMの開発研究報告書」に紹介されている通りであるが、一部を修正してここに再掲するとともに1.以降に実施内容と具体的な実施経過を紹介する。
0.1 事業の目的
本事業は同時並行作業を支援する知識共有の仕組みを検討し、「組立産業汎用プロダクトモデルの開発研究」の成果を用いて造船向けの高度な情報処理機能を有するプロダクトモデルとプロセスモデルを構築し、オブジェクトリクエストブローカー(ORB)を中核としたシステム環境の設計を行い、もって造船CIMの飛躍的な高度化を図り、造船技術及び造船関連技術の向上並びに我が国造船業の発展に寄与することを目的とする。