日本財団 図書館


9. INSROP協力研究

我が国周辺には、冬期流氷を見る北海道東方のオホーツク海を除けば、本格的な氷野を見る海域はない。このことは、反面、氷海中の問題を扱うに必要な土壌に恵まれないことを意味している。氷海中の複雑な現象を理論及び模型実験だけで扱い、解決するには限度があり、また関係産業分野の国際競争力の点においても、充分な実氷海経験が望まれる。

INSROPは基本的に典型的なフィージビリティ・スタディであり、具体的な技術の影は希薄である。我が国は、多様な実氷海経験を有するロシア、カナダ、北欧各国とは、氷海に関わる科学技術において異なる条件下にあることを踏まえて、我が国独自の技術的側面を強調した研究計画を組み、INSROPと連携させることにより、INSROP成果を効果的に、咀嚼、吸収できることから、日本財団の協力、支援を得て、INSROPに連携する我が国独自の調査研究計画を実施した。

ここでは、航路周辺の気象、海象、氷況に関する補足的データの収集、分析、氷況予測の予備的研究、NSR最適船舶の設計と模型試験による性能確認、夏季航行で問題となる氷盤と波浪との干渉問題の検討、NSR航行パイロット・シミュレーション、INSROP事業の支援作業等を精力的に行い、所期の目的を充分果たしたと言える(例えば[16])。

 

10. おわりに

INSROPは、北極海航路及び周辺海域に関わる過去類例のない規模の、かつ幅広い視野での研究事業であり、百数十編の及ぶ研究論文、成書刊行、IST '95などの国際シンポジウムの開催を通じて、その成果は高く評価されつつある。少なくとも、北極海航路及びその関連問題について、INSROPを凌駕する包括的かつ詳細な研究成果は見当たらない。

市場原理に基づく仕組みや活動に対して、アンチテーゼが提示され、持続的発展、あるいは持続型社会の提言が聞かれる現在、市場原理の理解を説くことには、いささか違和感を禁じえない。しかし、ロシア側での市場原理の理解なしにはNSRの啓開はあり得ないことも事実である。

北極海は、大循環、深海流の生成、地球温暖化モニタリングなど、地球環境の上から最も注目される海域である。また同時に豊富な資源の眠る海域でもある。いずれ世界が、とりわけわが国が、これらの資源に深く依存する時代が訪れよう。北極の海は、無限の海から限りある海の認識と言う、新しいエコエテイカの基本理念を遵守しつつ、21世紀に向けて今後我々人類が有限な地球生態系の中で、海洋と、さらには水の惑星地球と共生し得るか否かが真に試される場でもある。

 

INSROPのもう一つの成果は、国際協力の実を挙げたことにある。このような国際協力事業は、外交2輪の一つ、民間外交の一翼を担うものであるからである。極めて日常的な個々の問題を検討吟味することにより、彼我の相違を認識し合い、それぞれの価値観を認めた上での合意を探る努力が払われる。つまり、各論の議論を通じて、総論のおぼろげな姿を模索し、構築する。このような作業過程を経て、相互理解を深め、折々の外圧や好ましからざる環境によって、紅余曲折はあっても、双方の信頼を確かなものにすることができる。このようなアプローチは、広義での民間外交ならではのものであり、本来の事業目途、成果同様に貴重な成果となる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION