上記の様に、(1)は割合古い衛星であり解像度も25kmと高くないが、観測範囲は約1,000kmと広く、生データから氷密接度などの物理データへの変換アルゴリズムがある程度確立されている。その上、米国のNational Snow and Ice Centerから、インターネットを通してデータが無料もしくは格安で手に入る。
(2)は、最近打ち上げられた衛星であり、前述の様に観測範囲が最も広い500kmでも100m程度の解像度を有するとこの仕様は、本研究に最適である。しかし、まだ生データから物理データへの変換法が確立されておらず、供給されるものはモノクロ写真レベルのものでしかない。また、データが大変高価であり、過去のデータであってもその金額は小さくならない。
以上の様に、RADARSAT衛星のSARセンサのデータの方が本来は最適であり、需要が高まれば価格も安くなると思われるし、データ解析技術も進むであろう。しかし、衛星氷況データの解釈そのものを検討対象としない本研究の場合は、時期尚早と判断し、DMSP衛星のSSM/Iセンサによる氷況データを用いることとした。SSM/Iセンサの氷況データはデジタル化されており、計算のための加工がし易いというのも理由の一つである。
3.2.3 計算モデルと計算対象
計算には、昨年と同じく力学的DMDF(Distributed Mass/Discrete Floe)モデルを用いた。その概念を図3.2.5に示す。詳しいことは、昨年度報告書と参考文献を御参照頂きたい。DMDFモデルは、流氷野全体を矩形の格子に分割し、格子毎に対応したそれぞれの氷群内で、同じ大きさと形状をした氷盤が分布する。と仮定するものである。氷盤の衝突や接触による力の伝達(相互干渉力)は、氷群内及び氷群間の水盤の衝突の際の運動量保存則で表現する。水盤の形状の差異(Yamaguchi et al, 1997)や回転の影響(長岡、1999)が近似的に表せる様になっているが、それらは今回の計算の様な広領域の計算には殆ど影響ない。
DMDFモデルは、多層モデルによる海流計算と連成させた計算が行える様になっている。また、熱による氷の成長・融解との連成計算も行われたことがあり(鈴木、松沢、1995)、最近は特に簡便な熱モデルも開発された(長岡、1999)が、時間の都合により、熱の影響は今回の計算には考慮されていない。
本研究は、コンパクトなシステムでかつ高速な予測計算を目標とする。従って、現在既に広く普及しているデスクトップ型高速コンピュータを、計算に使用する。CPUとして、DECの600MHz Alphaチップー個を搭載したものである。価格も、ディスプレイ等の周辺機器込みにて、百数十万円で購入できる。
氷海航行支援を行うためには、下記2種類の水況予測を行う必要がある。
(1) 下記(2)の計算の境界条件を与えるための、北極海全域計算
(2) NSRに限った中規模領域計算