(3) 応用解析例
本システムで用意された機能を組み合わせる事により、さらに進んだ解析を行うことができる。例えば、航路のように地図上に定義される対象に関して、環境を調査し検討を進める上で、本システムは有効なツールになる。北極海の環境は海域と季節によって変化するため、環境の変化を考慮して航路の選定や運用が行われるべきである。また、水深等地形的な問題も併せて考えなければならない。ここでは航路検討の例として、本システムによる北極海航路の設定と、航路に沿った氷厚データの抽出、解析について前述のQueryを用いた方法から発展させた解析手法を紹介する。
全体の解析の流れは、1)解析するソースデータの読み込み、2)航路の設定、3)航路上環境データの抽出、4)解析、の4段階である。
1) 環境データの読み込み
前述のQueryメニューを使って、広域の氷厚データ群から解析する項目のデータを、図3.1-2と同じような形式で地図上に表示する。ここでは4月の平均氷厚分布を読み込んだ。
2) 航路の設定
メニューからNew ThemeでLineデータを選択し、ツールのDraw Lineで地図上に新たな航路を作成・定義することができる。図3.1-9はその例で、東シベリア海に約1,500NMの航路を設定したものである。
3) 航路上の環境データの抽出
航路は線データであり、また広域データも拡大すると図3.1-10のような点列であるため、両者は一様に重ならない。このままでは航路上のデータを距離に対して同じ程度の密度で抽出できない。そこで、線データを帯状に変える機能(Create Buffer Theme)が備わっている。
図では、環境データのグリッド間隔が25kmであることを考慮して、帯の幅を30kmに設定した。次にこの帯に含まれるデータをSelect By Themeコマンドで抽出することができる。図3.1.11はその結果で、画面の下には約11,000ポイントのデータ群から帯に含まれる約240ポイントのデータがテーブルに抽出されている。
4) 統計解析
INSROP GISのチャート作成機能または他の解析ツールを用いて、抽出された環境データの解析を行うことができる。後者のために抽出データの外部出力機能がある。図3.1-12は抽出された航路上の平均氷厚の頻度分布を表したものである。
以上のように、本システムは、新たに設定した航路上の環境データについて容易に解析が行える他、複数設定された既存の航路について季節に応じた航路選定を検討する際にも有効なツールと成り得る。また、気温と氷厚等、いくつかのデータを航路や海城毎に抽出して、これらの相関を調べることも可能である。
なお、この他の応用として、例えば、NSRを航行する船舶の事故により発生する油汚染のシミュレーションについては、最重要検討課題の一つであろう。しかし、これを精度良く行う為には、これまでのOpen Waterでの予測手法に加え、氷雪の存在も考慮する必要があり、その際には本システムから得られるデータは貴重で不可欠なものとなろう。更に今後NSRを航行する船舶が増大すると、航行船舟白による事故も増大する事が予想される。事故の発生場所と氷況、海象との関連、危険海域の検討等にも本システムは活用でき、氷海域航行における船舶の危険予知シミュレーション等にも役立つと考えられる。