第1章 緒言
極東アジアと欧州とを最短距離で結ぶ北極海航路(NSR)は、極域各地に賦存する豊富な資源の探査、開発の動きに合わせ、その商業航路としての是非が注目を集め、日本、ロシア、ノルウェー3ヶ国による国際北極海航路計画(INSROP: International Northern Sea Route Programme)として、平成5年より平成10年まで、詳細な調査、研究が行われてきた。この計画は、3ヶ国が中心となり、日本財団の支援、協力の下、・海外の専門機関、研究者の協力を得て、北極海及び周辺海域における自然条件、氷海航行技術、潜在的物流量、採算性及び将来性、国際及びロシアの関係法制、保険、航路の啓開とその後の発展が原住民社会へもたらす影響、さらには、地球環境研究への波及効果など、広範囲に亘る観点から、北極海航路の商業的運航の可能性を検討、評価したものである。
INSROPにおいては、上記事項について、個々の論旨を優先させ、調査、検討を行ったPhase Iの事業の後、Phase I事業成果に対する国際評価委員会の提言、勧告に基づき計画されたPhase II事業を平成9年、10年の2ヶ年を掛けて実施し、本年全ての調査、研究事業を終了することとなる。Phase II事業は、Phase Iでの個別的研究成果を成書として集大成するための事業、勧告に基づく補足的調査研究、INSROP GISの整備、普及、及び北極海航路運航シミュレーションからなる。
我が国主導のプロジェクトである運航シミュレーションは、NSR航行を想定して設計した砕氷型貨物船を電算機上で運航させ、運航採算性を始め運航に伴う様々な問題を、INSROP事業成果を駆使して検討したものであり、事業エッセンスの出版とは手法を異にするが、より具体的なINSROP事業の集大成であると言える。これは、先ず、複数の代表的航路を選定し、海域区分、航路区分毎にその航路上の氷況等を推定する。次にここで開発した航行シミュレーション・スキームにより、航行区分海域毎に設定した氷況中の航行速度等を計算し、国際商業航路としてのNSRの経済性評価、航行技術及び環境影響評価等を行うものである。
平成10年度においては、下記の事業を計画した。
・INSROP事業の集大成については、編集委員会を開催、その編集方針各章主著者に対する要望事項を取りまとめ最終原稿を作成する。
・INSROPGISについては、補足的情報の追加及び若干の整備を行い、その普及に向けての作業を行う。
・9つのワークパッケージからなる運航シミュレーションについては、前年度から引き続きワークパッケージを順次完了させ、最終的な結論としてのNSRの経済性評価等について明確な結論を得る。この他1NSROP事業集大成及び、運航シミュレーションを補足するいくつかの研究計画を実施する。
・情報の可視化については、INSROP GISの日本人向け基本操作マニュアルを取りまとめる。同時に、NSRにおける最適航法に必須な氷況数値予測システムについては更に研究を進め、予測精度の向上を図る。
・INSROP事業を通じて、INSROP WORKING PAPERの他、入手、収集した様々な関係情報を整理し一般の利用の便を図る。
・この他、講演等での発表を通じてINSROP事業成果の普及、啓蒙に努めることとする。