賢治が見ていたものを
演出 ふじたあさや
宮澤賢治の作品は、何回も舞台化しています。でもけっして「もううんざりだ、やめよう」ということにはなりません。それは、いくらやっても、まだまだ新しい発見があるからで、実際、賢治という人はどうしてこうものを知っているのか、どうしてこう深くものを考えることができたのかと思います。目下の急務である環境破壊の問題にしても、自然との共存の問題にしても、とうの昔に賢治はその答えを作品のなかに書いているのです。六十年も前に、どうしてそんなことがわかっていたのか不思議でなりません。
菊池准さんも、どうやらそんな賢治の底知れぬ不思議さにとりつかれた人のようです。よほどとりこになったらしく賢治の童話を四つも、脚本のなかに入れてしまいました。もっと面白いことに菊池さんは、賢治の世界に観客をお誘いするための入口として、一通の手紙を用意したのです。
実は賢治には、〈手紙四〉という作品があって、(手紙が作品なんておかしな話ですがこれは誰宛のものかまったくわからない、宛名のない手紙のかたちで書かれた作品で、手紙のように配られたものらしいのです)不思議な謎に満ちた内容なのです。菊池さんはこの謎解きから賢治の世界に入っていこうとしているのです。
謎解きの向こう側には、賢治の描いたイーハトーヴがあり、賢治の願いや祈りがあり賢治の見ていたものを、見ることができるのです。そして賢治にはげまされて、明日をめざすのです。
いつもと違う風
脚色/菊池准
宮澤賢治の世界にはいつも風が吹いているような気がします。その風は僕らが生きている世界に吹く風とは違う感じがしますが、どこかでその風にふれたことがあるような気もするのです。その透き通るような風が吹き抜けると、僕らはその風の中で洗われ、純粋な存在として色々な命とふれあうことが出来る。そんな記憶が、心の中に残っているのです。でも今、僕らはそんな風が吹き抜ける世界からはとても遠い所にいます。僕らは、かつて僕らを取り囲んでいた自然とは離れ、自然と名のついた人工物に取り囲まれています。残念ながら、ここにはあらゆる命を包み込み、絡み合い、心を交流させてくれるような風は吹いていないようです。いいや、ちょっと待ってください。もしかすると、山猫博士の所に届いた手紙は、そんな風によって運ばれにてきたのかもしれませんね。とすると、僕らの所にも、物語からこぼれた風が『宛名のない手紙』を運んでくれているかもしれません。どうです、いつもと違った風を感じてはいませんか。
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表紙・題字・カット
渡辺俊明