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次に農業投入財をみてみよう。第1-9表は、北西部先進州とビハール州における米の生産費構造の比較である。農機具・種子・化学肥料・殺虫剤そして灌漑費といった現金支出を伴う近代的投入財が総生産費用に占める比率は、パンジャーブ州で59.47%、そしてハリヤナ州で54.87%であるのに対して、ビハール州では19.53%でしかない。投入財についての市場ネクサスの程度もまた、インド北西部では高く、ビハールのような貧困州では低くなっている。従って、補助金・農業金融政策の影響を含めた近代的投入財の価格動向もまた、緑の革命を推進する農民にとって、より重大な関心事となる。

緑の革命については、その食料増産効果だけでなく、農産物と農業投入財の双方において農民の市場ネクサスを強めていったことに注目すべきである。この市場ネクサスは、緑の革命の普及の地域差や経営規模面積と関連して、農業政策にかかわる農民の利害関係を多様化させていくことになる。例えば、農産物市場価格を高める政策は、インド北西部の農業先進州の農民には歓迎されても、市場化余剰をもたないビハール州の農民には生産増加の誘因とはならない。それどころか、穀物を購入しなくてはならない非自給農家の生活を圧迫することにすらなる。農地改革など農業生産にかかわる制度の改革がなされることなく経済発展を追求しようとしクインドは、開発資金調達の制約のみならず、緑の革命の過程で地域間・地域内格差から生じた利害調整という困難な課題に直面することになった。これは政治問題と結びつくことによって、インド経済の攪乱と要因となっていく。

60年代半ばから始まった「緑の革命」による穀物生産の増加は、結果的には、穀物輸入への依存体質からインド経済を脱却させていった。といっても1人1日当たり穀物消費量に変化がなかったことから察せられるように、穀物生産の増加は穀物輸入を代替しただけであり、国内の穀物の需給関係に根本的な変化がみられたわけではない。また、新農法が化学肥料使用的であったことから、化学肥料の輸入を含めた農業関連財の輸入額が総輸入額に占める比率は1977/78年までは高い水準にあり、工業化を推進するために必要となる資本財・技術の輸入を阻害していた。

 

 

 

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