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1-2 開発資金の逼迫

輸入代替工業化を実現するうえでの資本財輸入の増加は、1960年代のわが国の経験からしてもそうであったように、国際収支の天井に経済を突き当たらせることになる。特にインドの場合には、輸出産業の育成ではなく輸入代替を目指した重工業優先政策が採用された。
その結果、確たる輸出産業を持たないインドでは、輸入代替工業化に誘発された資本財輸入の増加が貿易赤字を拡大させて外貨を瞬く間に枯渇させた。たとえば、貿易赤字/GNPの比率(第1-1図)は1957年にはひとつのピークをむかえており、と同時にそれまで1以上あった外貨準備高/ 輸入額比率(第1-2図)も急減していることからその事実を垣間見ることができよう。
その後も貿易赤字/GNP比率は高い水準にとどまり、後述する1960年代半ばの経済危機にいきつくことになる。また対内的には、5カ年計画の遂行の過程で財政赤字が深刻化していった。経常歳入で賄われない財政支出は、借款と贈与を含む外国資本借入と国内資本借入で補われる。それでも不足する予算部分は、赤字財政として実体経済の裏付けのない貨幣増発により埋め合わされる。第1-1表は初期の5カ年計画の総予算に占める借入と赤字財政の比率である。これから、インドの財政基盤の脆弱さが見て取れよう。ただし、この問題が深刻化するのは1980年代に入ってからである。

 

1-3 リカードの成長の罠と農業危機の到来

開発資金の調達に苦しむインドの現状を、農業との関連で見ていこう。インドのように膨大な過剰労働力を抱える経済が離陸するための主要な条件のひとつとして、ルイス型の無限弾力的労働供給の恩恵を工業部門ができるだけ長期にわたり享受しうることがあげられる。しかし過剰労働の存在にもかかわらず実質賃金が上昇してしまい、工業部門の成長が抑圧されることがある。すなわち支出に占める食料支出の比率が高い低所得経済では、食料価格が上昇すると、工場労働者の生存を保証するために食料価格の上昇にインデックスして賃金も上昇することになる。その結果として賃金制約がうまれ、それが工業部門の利潤を圧迫して工業化が頓挫するという、いわゆる産業革命期の英国経済について指摘されたリカードの成長の罠として知られる論理である(第1-3図)。

 

 

 

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