人口の大きさの観点から、アジアは世界を、中国、インドはアジアを代表するばかりでなく、その人口行動はそれぞれの地域を反映し、また他の地域への波及といった影響をもっている点において重大な存在である。
事実、アジアは人口政策、特に家族計画による出生抑制において世界を牽引する役割をもってきた。1963年の第1回アジア人口会議は国連の場での人口コントロール論のタブーを打破したが、インドは指導的役割を演じた。アジアにおける人口増加抑制政策の全面的な合意が世界の統一行動への前進に大きく貢献したことはいうまでもない。
アジアにおける人口転換の完成は日本によって実現されたが、やがて若干の時間的おくれをみながら東アジア諸国に、そしてさらに東南アジア諸国に急速に波及していった。東アジアではモンゴリアを除いてすべて合計特殊出生率が置換水準以下の低水準に達している。東アジア全体の指標も1.88で置換水準以下にある。開発途上国でこのような出生力の劇的な低下は全く予想されなかった。東南アジアにおいてもシンガポールとタイは置換水準以下の出生力を達成している。この地域のその他の国々にもそれぞれ低下傾向をたどっている。
インドの位置する南・中央アジアではスリ・ランカのみが置換水準直前の出生力低下を実現している。この地域の大国インドではなお3.39の高い合計特殊出生率を示している。しかし、1970―1975の時期には5.4であったから、20年間に平均子供数は2人減少したことになり、注目すべき成果をあげている。インドは戦後いち早く家族計画政策を政府の政策としてとりあげた先行国で有る。宗教、地方分権、多言語、カスト制度等いくたの困難な諸条件下での家族計画の民衆への浸透は決してよういではなかった。末端行政における行き過ぎた一部の行動は政治上の混乱、家族計画行政の停滞をひきおこした。このことはインドにおける出生力低下の速度を鈍化させた。
しかし、最近における着実な出生力低下はさらに持続することは確実である。1992-93年のインドの全国家族健康調査(National Family Health Survey―NFHS―)によると、13-49歳の既婚女性の平均希望子供数は2.9人であり7)、現状はなおかなり高い。他方、インド経済は浮上傾向を示しており、特に南部における先行地域の経済発展は、インドの出生力低下を推進することがよそうされる。