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はじめに

 

2050年の世界人口はわずか6年間の間に100億人から89億人へと推計値が改正された。最近発表された国連の1998年修正値である。11億の減少へと下方推計された。このことは人類の人口問題解決に向かっての努力の輝かしい成果といってよい。

しかし、手放しで安心してはおられない人口の重大側面がある。それは人口モメンタムと呼ばれる現象である。それは過去の高い出生率の時代に生まれたいわゆる団塊の世代の赤ちゃんが大量の結婚年齢期人口に達するということである。当分の間何十年間は毎年、多い時は8000万以上の人口が追加されるということである。

合計特殊出生率の低下は著しく、先進諸国の大部分が置換水準以下に達しているだけではない。アジアの途上国でもすでにシンガポールを始め、中国、韓国、タイ等の諸国では置換水準以下の出生力を実現している。

人口爆発という人類最大の危機にもほのかな明るい道筋が見え始めている。しかし他方において、このかすかな光明をも打ち消すような地球規模的不安定要因が加速度的に増大している。それは食糧問題であり、環境悪化の問題であり、あるいはまた世界政治の無秩序化の問題である。

私共の1つの戦略は、このような世界規模の複合的危機解決の手掛かりをアジアに求め、またアジアの手掛かりとして中国、インドに求めたことである。現在12億の中国、10億のインド、そして2050年にはそれぞれ15億、合計30億が占める地球規模的意義は単に人口の大きさのみではない。人口転換、経済成長におけるその行動はアジア、延いては世界の動向に重大な影響力をもっているものと考えられる。

巨大人口国の中国が出生力コントロールにおいて、世界に例のない、専門家の予想しえないシステムを展開し、また他方において社会主義体制から市場自由主義体制を導入し、みごとな高度成長を遂げつつあることは、批判の余地は別として、それは現実の事実であり、アジアの新しい上つの発見として重視する必要があろう。

 

 

 

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