日本財団 図書館


卒後研修における各講師の講義の概要

 

1. 結核の疫学 Dr. D. Enarson (IUATLD)

まず結核感染への暴露から、実際の感染、発病、そして感染性結核への進展がどのように起こるか、それに関連する要因は何かが説明された。そして結核対策の目的は感染性結核患者が感染源となって、多くの人に初感染を起こし、その一部が発病し、さらに進展して新たな感染源患者となるという、この社会の中で結核が伝達する感染の連鎖を断ち切ることであることを強調した。そのための結核対策の手段としては、患者の発見と確実に治すことが最も重要であること、BCG接種は小児の結核、特に重い粟粒結核や結核性髄膜炎の予防には有効であるが、感染源は大人の感染性患者であるため、結核を急速に減らす上での効果は期待できないことが述べられた。症状があって受診してから、治療を受け治るまでの課程を確実に見守ることの重要性とその具体的な方法についても解説が加えられた。

博士の講義は、いつものように参加者との対話を繰り返しながら講義を進める方式で、わかりやすく、研修の最初の講義として最も適切なものであった。

 

2. 結核の化学療法の基礎 S. L. Chan (Hong Kong)

INH、RFP、EBにPZAを初期2カ月加える6カ月の短期化学療法が可能になるまでの経緯を、英国のMRCが東アフリカ、マドラス、シンガポール、香港などの研究者と共同で行った研究を中心に解説した。抗結核薬には、活発に増殖中の菌を殺す殺菌作用を持つもの、ゆっくりと、あるいは時々代謝している半休眠状態の菌を滅菌する作用を持つもの、抗結核薬に対する耐性の発現を阻止する作用を持つものがあり、INH、SM、RFPは殺菌作用、RFPは滅菌作用を持ち、PZAはマクロファージ内、あるいは急性炎症期に細胞外での酸性の環境作用をする。完全に休眠している菌に効く薬はない。

PZAを加えることによって化学療法期間の短縮が可能であるが、短縮が期待できるのは治療当初にPZAを加えた場合であり、維持期にその作用はない。治療期間の短縮はRFPなしには考えられない。EBの作用はRFPより劣る。抗結核薬の組み合わせを間欠的に投与する場合、週2〜3回の投与なら、投薬量を増やせば毎日法と同じ効果が期待できるが、週1回投与では、INHの迅速代謝型の人では効果が低下する。治療初期の殺菌効果は、INH、RFP、PZA、SMが強い。INHとの2剤併用の場合、RFPかSMでは耐性出現の恐れは少なく、EBがこれに次ぎ、PZA、PAS、Tb1では10%強に耐性が出現する。

 

3. 耐性結核の管理 M. D. Iseman (National Jewish Medical and Research Center, Denver, USA)

初回耐性の治療効果への影響についての英国MRCの研究成績では、感性群では治療失敗が0.15%、再発率が5.2%であるのに対して、INHとRFPのいずれか、あるいは双方に耐性の例では、失敗率が11.5%、再発率が10.3%で、初回耐性例の治療効果が劣っている。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION