連載 笑う門に福来たれ
ものは言いよう 『江戸のこばなし』より 最終回
殿さまが、ご家老をお呼びになって、
「これ、儀左衛門(ぎざえもん)。もちっとそばに寄って、余の尊顔をとくと拝見致せ」
とおっしゃるので、儀左衛門が、おそば近くに進み寄り、
「なかなか結構なお顔とお見受け致しまするが・・・・・・」
と、お答えすると、
「さようであろう。でもな、人の口に戸は立てられぬと申すが、余の顔が『猿にそっくりじゃ』などと申すけしからんやつがいるそうな。正直に申してみよ。まさか、わしは猿などに似てはおるまいな?」
そこで、儀左衛門、殿のお顔をじっくりと見改め、大げさに口とがらせて、
「殿のお顔が猿に似ているなどとはとんでもございません!似ておりますのは、猿めにございます」
(『近目貫』(きんめぬき) 安永二年・一七七三年刊)
● さて、この儀左衛門、その後の運命やいかに…。世の中不況、不況と騒がれているが、心のゆとりだけは忘れずにいたいもの。こばなしに笑えるあなたなら、モチロン大丈夫。日々の生活にユーモアを!
● 1年間連載の『江戸のこばなし』シリーズも、今回でいよいよ最終回。江戸時代、町人の間で広く愛された「小咄(こばなし)」、世の中ははるかに変われど、時空を越えて現代の私たちにも粋な笑いやペーソスを届けてくれる。また、どこかで、楽しい笑いのひとときを。ご愛読ありがとうございました…。
● 『江戸のこばなし』(定価1100円) 山住 昭文著
原作の味わいを残しながら、現代の読み手にもわかりやすく手を加えた軽妙な文章の1冊。筑摩書房から好評発売中。