連載 笑う門に福来たれ
出火御礼 『江戸のこばなし』より No.11
勘当されていた道楽息子が、親の家の近くから火が出たと聞いて、飛んで帰って死に身になって家財道具を運び出そうとするので、息子の気の変わりようを喜んだ父親が、その場で勘当を許してやった。
息子、喜び、
「おっかさん、羽織と袴を出しておくれ」
と頼むので、父親が、
「この火事騒ぎのさなかに、どこに行くつもりだ?」
と言うと、
「ちょっと、火元の家にお礼を言いに行って参ります」
(『咄土産』(はなしみやげ) 文政七年・一八二四年刊)
● 空気が乾燥している冬は火の気は大敵。どうぞみなさまくれぐれも火の用心、火の用心・・・。
● 江戸時代、町人の間で広く愛された「小咄(こばなし)」。短い話の中に人情や世相の機微を取り込みながら、おもしろおかしく結末を結ぶ。世の中ははるかに変われど、当時のこばなしは、時空を越えて現代の私たちにも粋な笑いやペーソスを届けてくれる。山住昭文氏による著作から毎回連載でお届けする。
● 『江戸のこばなし』(定価1100円) 山住 昭文著
原作の味わいを残しながら、現代の読み手にもわかりやすく手を加えた軽妙な1冊。筑摩書房から好評発売中。