日本財団 図書館


連載 笑う門に福来たれ

 

 

返す当て 『江戸のこばなし』より No.9

 

「仏の顔も三度というが、今日はどんなことがあっても払ってくれ」

「いつも言い逃ればかりしていて心苦しいが、でも、きっとした当てが三つあるのでもう一度だけ眼をつぶって待ってくれ」

「それは、どういう当てがあっての相談じゃ?」

「まず、その一つは、どこかで金を拾うかも知れぬ。それから、もう一つはだれかからもらうかも知れぬ」

「ばかばかしい。そんな夢みたいな話を真に受ける馬鹿がどこにいる」

「いやいや、あとの一つはきっと当てに出来そうだ」

「それは何だ?」

「そのうち、お前が死ぬかも知れぬ」

(『再成餅』(ふたたびもち)安永二年・一七七三年刊)

 

● こんなブラックユーモアも、「小ばなし」として笑える時代は良かった!?年末に向け何かと物入りの世の中。どうぞお気を付けを…。

● 江戸時代、町人の間で広く愛された「小咄(こばなし)」。短い話の中に人情や世相の機微を取り込みながら、おもしろおかしく結末を結ぶ。世の中ははるかに変われと、当時のこばなしは、時空を越えて現代の私たちにも粋な笑いやぺーソスを届けてくれる。山住昭文氏による著作から毎回連載でお届けする。

● 『江戸のこばなし』(定価1100円) 山住 昭文著

原作の味わいを残しながら、現代の読み手にもわかりやすく手を加えた軽妙な文章の1冊。筑摩書房から好評発売中。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION